本日12月17日(金)より全国公開。
18年の時を経てについに復活を遂げたシリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』。公開当時一世を風靡したシリーズが、現代でどう蘇ったのか。
今回のレビューではストーリーに肝となる部分やオチには触れませんが、序盤の展開などには言及しますので、ネタバレが気になる方はお気をつけください。
製作背景が透けて見えてくるメタな作品
監督のラナ・ウォシャウスキーがドイツの映画祭のパネルで語った内容によれば、今作のストーリーは両親と親友を立て続けに亡くしたことがきっかけで生まれたもので、死の悲しみに向き合う中で「ネオ」と「トリニティー」を復活させようと決めたのだとか。こんな具合に、今作は監督の人生とかなりオーバーラップしたスタートを切り、随所にそれが現れていました。
ちなみに今作は過去作とは異なり、妹のリリー・ウォシャウスキーは参加していないのですが、The Entertainment Weeklyのインタビューによれば、かなり迷ったものの両親を失った直後に過去の作品に戻るということに興味が持てず一旦離れていたため、参加を見送っています。
※以下、序盤の展開に触れています。

そもそも『マトリックス』シリーズは、監督たちのトランスジェンダーとしての目線で作られたと監督自身が語っており、アイデンティティと変身が重要な要素となっていました。そして今作のネオはマトリックスの仮想現実世界で見た目がまったく別人の年老いたゲーム開発者の身体に囚われており、その要素はより強化されている構造となっています。
加えて、序盤では作中の仮想現実世界において『マトリックス』シリーズはトーマス・A・アンダーソンが開発した大ヒットゲームでの出来事ということにされており、ネオが自身に抱く違和感だけでなく、ヒット作の続編を作ることを強いられるプレッシャーもじっくり描かれていきます。
※序盤の展開への言及はここまで。

その辺りの描写からは、『マトリックス』シリーズを手掛けた撮影監督が『リローデッド』と『レボリューションズ』は制作面での自由がかなり制限されていて問題が頻発したと語っていたり、第1作の「スイッチ」というキャラクターは当初現実では男性でありマトリックスの世界では女性という設定にしようとしたもののワーナーがカットした、といったシリーズ製作の中で監督が直面した苦労が透けて見えてきます。
さらに今作を作る前にワーナーから何度も何度も続編の話を持ちかけられ繰り返し断ってきたということも監督は語っており、そういった背景からゲームの続編を作るために同僚や会議に苦しめられる場面に時間を割いたのだと想像できます。
その企画会議のシーンは的はずれな解釈や奇抜なだけのアイデアを披露したり、やたらバレットタイムを熱く語ったりするゲーム開発者が登場したりして、「『マトリックス』はアクションだけじゃないんだぞ」という監督からの映画関係者(というかワーナー)やファンに対しての強めのメッセージも感じる作り。
ただ、こういった部分は正直なところ想像するしかないので、ぜひ監督に語って欲しいところ。しかし、ウォシャウスキー監督は自身の解釈に関してコメントすることに消極的で、自作にオーディオコメンタリーなどを用意しなかったことでも知られているので、観客自身がそれぞれで考えてるしかないところかも。
一見すると過去作より控えめで“地味”な作り

とにかくそういった製作背景もあってか、やりすぎなくらいにド派手だったシリーズ過去作のアクションと比べるとかなり控えめで、当時のカッコいい見た目のテンプレートとなったサングラスにロングコートやレザーといったキャラクターたちのスタイルも、ちゃんと登場はするものの、少し落ち着いています。
過去作ではコミックアーティストを起用してコンセプトアートやストーリーボード(絵コンテ)を描かせており、画としてバキバキにカッコいいショットが多かったのですが、今回はそういったコミックっぽさ、アニメっぽさ、もっと言ってしまえばオタクっぽさがだいぶ抑えめです。

もちろん、アクションはたくさんあるし、新しい冴えたアイデアも盛り込まれているのですが、過去作と比べればどれも地味になっているのは間違いはないので、『マトリックス』シリーズのスタイリッシュな部分に惹かれたファンは不満を抱かざるを得ないでしょう。
また過去作では『マトリックス』の世界はグリーンがかった色味が特徴でしたが、今回は色味が変わっており鮮やかなシーンも結構あって、映像面では異なる印象を受けます。ただ、この変更に関してはストーリー/世界観ともリンクはしていることがわかるので、納得ができる形。とにかく今までとはビジュアル面では違いが目立っています。
「1作目の続編」ではなかった。展開も予想できない
予告編がリリースされた当初は一作目からの続編として説明されていたのでどういうストーリーになるのかと思いきや、観てみるとシリーズの正当な続編として作られており、そのつなぎ方はなかなか興味深く、かつ予想できない形になっていました。
第一作のセリフやアクション、さらにストーリー展開まで踏襲しながら、そこに映像の直接引用まで重ね、観客に「前の映画で見たことがある!」と思わせつつ「でもなんで同じことが起こるの?」と疑問も抱かせ物語に引き込む作りは上手い。

モーフィアスとエージェント・スミスのキャストが変わっていることは残念ではありつつも、劇中での理由はちゃんと説明されて、後任のヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世とジョナサン・グロフもいい味だしていました。そしてネオ役のキアヌ・リーブス、トリニティー役のキャリー・アン・モスは引き続きカッコいい。
また、この手のブロックバスター映画のシリーズの再始動を見込んで作られる続編は、過去作で起こったことや主人公たちが努力して勝ち取ったものを無に帰すようなものが多いのですが、この『レザレクションズ』はちゃんと地続きとなっていて、そういった点で珍しい続編となっているかも。
現実世界とマトリックスの世界の関係のその後についてしっかり掘り下げているし、現代の大衆へのコメントもしっかりあるので、現実と仮想現実を行き来するディストピアSFとしての『マトリックス』の世界観に惚れ込んだという人たちは楽しめるはず。
※以下、具体的な内容には触れていませんが、結末を踏まえたコメントがあります。
感想は大きく二分するはず…

『マトリックス』以降にラナ・ウォシャウスキー監督が経験してきたものを現実と仮想現実を行き来するSFに乗せて再び送り出す、ある意味でかなり個人的な作品。振り返って見れば『マトリックス』も監督が好きなものを限界まで詰め込みつつ、哲学的でかつ私的なテーマを扱った作品であり、原点回帰とも言えるかも。
決して単純な作品ではなく奇妙なところがいっぱいありながら、「愛の力」というシリーズ共通のテーマや監督がこの作品に込めた強い思いはよく分かるし、ちゃんと納得させてくれます。オチの付け方もカッコいい。

しかしそれと同時に当時『マトリックス』のカッコよさに完全にやられた世代としては、正直に言うとロングコートやレザーにサングラスの面々がアクロバティックに戦いまくる映画も見たかったという気持ちも強い。度肝を抜かれる映像体験という点では、過去作ほどではありませんでした。
また今回、映画が約2時間半でシリーズ最長となっており、先述の“ネオが自身に抱く違和感とヒット作の続編を作ることを強いられるプレッシャー”に苦しむ場面に序盤の結構な時間を割いているので、タネ明かしがされて物語にエンジンがかかるまでが長かったのが、ちょっと残念だったところ。
とにかく見る人によって抱く感想が大きく違ってくる作品となることは間違いなし。なのでこの作品に自分がどういう感想を抱くか、ぜひ自分で見て確かめて欲しい一本です。
『マトリックス レザレクションズ』は、12月17日(金)全国公開です。
『マトリックス レザレクションズ』
原題:『THE MATRIX RESURRECTIONS』
監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、プリヤンカ・チョープラー・ジョナス、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
オフィシャルサイト:matrix-movie.jp オフィシャルTwitter:@matrix_movieJP #マトリックス
Source: 『マトリックス レザレクションズ』公式サイト、YouTube、The Entertainment Weekly、The Mary Sue、IndieWire