ロック歌手ニール・ヤング氏、コロナ誤情報か自分の曲か選べと配信大手に迫る

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カナダ出身のベテランロック歌手ニール・ヤング氏(76)が、新型コロナウイルスをめぐる偽情報の拡散をめぐり、スウェーデンの音楽配信大手スポティファイを批判し、偽情報の配信を止めるか、自分の楽曲の配信を止めるか選ぶよう迫った問題で、スポティファイは26日、ヤング氏の曲の配信を取りやめた。これを受けて28日には、カナダ出身のロック歌手ジョニ・ミッチェルさんも、同じ理由でスポティファイから楽曲を引き上げると方針を示した。
スポティファイが配信する人気ポッドキャスト番組では、新型コロナウイルスワクチンの効果を疑う司会のジョー・ローガン氏が、ワクチン懐疑論者や、子供へのワクチン接種に反対する感染症専門家などを登場させている。
これについてヤング氏は24日、スポティファイが「ワクチンについて偽情報を拡散し、その偽情報を信じる人たちに場合によっては死をもたらす可能性がある」と公に批判した。
「ハーヴェスト・ムーン」や「ハート・オブ・ゴールド」などのロックの名曲で知られるヤング氏はスポティファイに、「ローガンかヤングか、どちらかだ。両方は無理だ」と選択を迫っていた。
これを受けてスポティファイは26日、ヤング氏の曲の配信を中止した。
スポティファイは、この措置を「残念に思う」として、ヤング氏がすぐにスポティファイに戻るよう期待しているとコメントした。さらに、「世界中のすべての音楽とオーディオコンテンツを、スポティファイ・ユーザーに提供したいと思っている。それには、リスナーの安全と、クリエイターの自由のバランスをとるという、大きな責任が伴う。コンテンツについて私たちは詳細な掲載方針を設けており、パンデミックが始まって以来、COVID-19関連で2万件以上のポッドキャスト・エピソードを削除してきた」と説明した。
一方のヤング氏は26日、スポティファイの番組で取り上げる新型コロナウイルス関連の命を脅かす危険な偽情報について医療関係者200人以上が抗議していると知って、この問題を知ったと公式サイトに書き、「スポティファイは最近、COVIDに関する偽情報とうそを広めることで、とても危険な勢力になった」と批判した。
さらに「音楽を愛する若い精神を、命を脅かしかねない偽情報でもってスポティファイによって汚染されてはならない」と書き、ワーナーブラザーズやユニバーサルなどの支援に感謝した。「世界全体のストリーミング収益の60%を(スポティファイからの楽曲引き上げで)失うことになるが、それでも僕を支持して耐えてくれるワーナーブラザーズ、ありがとう」と、ヤング氏は書いた。
28日にはさらに「スポティファイを離れたおかげで、気分がすっきりした」とヤング氏は書いた。
陰謀論者も
スポティファイは、ローガン氏のポッドキャスト「ジョー・ローガン・エクスペリアンス」の配信権獲得のため2020年に1億ドルを払ったとされている。スポティファイでは一番人気のポッドキャストで、毎月2億回近くダウンロードされているという。
スポティファイのリスナーは月3億人以上で、有料会員は1億7000万人以上。

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同社は過去にもローガン氏の番組内容を擁護したことがあり、2020年には陰謀論者アレックス・ジョーンズ司会者(サンディフック小学校乱射事件を否定したことから、遺族への名誉棄損などが認められ損害賠償金の支払い命令を受けている。2021年1月の米議会襲撃事件について下院特別委に証人喚問されている。ツイッターはアカウントを永久凍結)を登場させたことも、スポティファイは擁護した。
同社のダニエル・エクCEOは当時、英紙フィナンシャル・タイムズに対して、「私たちはクリエーターにはモノづくりをしてもらいたい」、「クリエーターの発言内容について関わるつもりはない」とコメントしていた。
これまでのところ、他のアーティストがスポティファイから楽曲を引き上げる動きはあまり多くないが、米紙ニューヨーク・タイムズなど米各紙によると、カナダ出身のロック歌手ジョニ・ミッチェル氏が28日、ヤング氏や医療・科学関係者に連帯を示し、「無責任な人たちが、人の命を奪ううそを広めている」として、自分の楽曲をスポティファイから引き上げると自分のサイトで発表した。
一方、カナダのロックバンド「パップ」のギタリスト、スティーヴ・スラドコウスキ氏はツイッターで、ヤング氏の動きを称賛した上で、「ほとんどの音楽関係者にはそれができない。なんとかぎりぎり生計を立てるには、(ごくわずかな)配信料をかき集めるくらいしか方法がないからだ」と書いている。
専門家が公開書簡
ローガン氏のポッドキャストを問題視したのは、ヤング氏が初めてではない。
1月初めには、約270人の医療関係者や科学者がスポティファイに対して公開書簡を提出し、パンデミックに対するローガン氏の姿勢が懸念されると書いた。この書簡では、いくつかの新型コロナウイルスワクチンのもととなっているメッセンジャーRNA(mRNA)技術の初期研究に携わった米ウィルス学者、ロバート・マローン博士が昨年12月31日のポッドキャストに登場したことを問題視している。
マローン博士はmRNA技術の研究に携わったが、今ではmRNAワクチン治療を批判している。ワクチンを受けた方がCOVID-19へのリスクが高くなるという博士の主張については、多くの専門家が細かくファクトチェックを重ねて否定し、批判している。
マローン博士は、各国政府が国民に催眠をかけ、ワクチンを支持させていると主張。現在のパンデミックを1930年代のナチス台頭になぞらえて語っている。
ツイッター社は昨年、マローン博士が偽情報を拡散しているとして、そのアカウントを凍結した。
マローン博士が登場した昨年暮れのポッドキャスト収録に先立ち、ローガン氏は自分は「反ワクチン派ではない」と表明し、「安全だと思うし、大勢が受けるべきだ」と述べた。ただし、若者には必要ないと言う持論は撤回しなかった。
ローガン氏は、駆虫薬「イベルメクチン」がCOVID-19治療薬として効くと主張を続けていることからも、アメリカでは批判されている。
一方のヤング氏は、幼いころにポリオに感染している。1955年にワクチンが使われるようになる4年前のこの経験について、ヤング氏は「最初の大きいトラウマ」だったと語り、他の子供たちが回復期の自分に近寄らないよう言われていたことを述懐している。
ヤング氏が自分の楽曲をスポティファイから引き上げるのは、これが初めてではない。2015年には音質が悪いという理由で、他のストリーミングサービスと合わせてスポティファイでの配信を停止していた。