ロシアで「頭脳流出」進む 数千人が海外へ脱出、ウクライナ侵攻で

レイハン・ディミトリ(ジョージア・トビリシ)

Russians as they wait for a taxi at the airport upon their arrival in Tbilisi on 7 March

画像提供, Getty Images

画像説明, ジョージアの首都トビリシの空港でタクシーを待つロシア人(7日)

東欧のジョージア議会の外で、1人男性が衣服や食料が入った箱を、ウクライナに向かうトラックに積み込んでいる。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、ジョージアには2万5000人以上のロシア人がやってきている。先ほどの男性、エフゲニー・リャミンさん(23)もその1人だ。

ロシア人たちはジョージア国内のあらゆる主要都市で、手頃な宿泊施設を見つけるのに苦労している。多くの人がスーツケースを手に、首都トビリシをさまよっている。ペットを連れている人もいる。

リャミンさんのトレンチコートの襟には、ウクライナ国旗の青色と黄色のリボンがついている。ロシアがウクライナに戦争を仕掛けた翌日、彼が反戦デモに参加したとして逮捕されたのは、このリボンのせいだった。

「プーチン政権に対抗する最善の方法は、ロシアから移住することだと理解していました」と、大学で政治学を学んだというリャミンさんは言う。「ウクライナ人を助けるためにできることは何でもする。それが私の責任です」。

動画説明, 「ロシア国民全員が戦争支持ではない」 隣国ジョージアで人道支援するロシア人

ロシアを脱出した人たちの行き先は、ジョージアにとどまらない。欧州連合(EU)、アメリカ、イギリス、カナダはロシア航空機の自国領空での飛行を禁止している。そのため、こうしたロシア人たちはトルコや中央アジア、南コーカサスなど飛行が許可され、ビザが不要な国に向かっている。その多くはアルメニアに逃れている。

ロシア人経済学者の推計によると、ウクライナ侵攻開始以降、20万人ものロシア人が国を離れたという。

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ロシアの同盟国ベラルーシの人々も国外へ移動している。弾圧から逃れ、権威主義的な同国の指導者アレクサンドル・ルカシェンコ大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に協力したとして西側諸国が科した制裁から逃れるために。

そのため、トルコ・イスタンブールやアルメニアの首都エレヴァンといった主要都市に向かう直近のフライトや宿泊施設などの価格が急騰している。

「イスタンブールへの片道航空券は、私たち夫婦の月収を上回る額です」と、アーニャさんは名字を伏せて話してくれた。

アーニャさんが国外への脱出を決断したのは、ロシアで新たな「国家反逆」法が施行されたことがきっかけだった。ウクライナへの支持を表明した者は20年以下の禁錮刑が科される可能性がある。アーニャさんは自分が標的にされるかもしれないと考えたという。

「閉ざされた国境や政治的抑圧、強制的な兵役に対する恐怖は、私たちのDNAに刻まれています。祖母がスターリン政権下の恐怖に包まれた暮らしについて話してくれたのを覚えています。私たちはいま、そういう状況下にいるのです」

Young Russians arrive in Tbilisi

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画像説明, 推定2万5000人のロシア人がジョージアへと渡ったとされる。写真は首都トビリシに到着したロシア人の若者

どんな人が海外に移住しているのか

新たな移住者の多くは、リモート勤務が可能なハイテク産業の専門職の人たちだ。トビリシのカフェで出会ったゲーム開発者は、自分や知り合いのほとんどはロシアの政策に反対していると話した。どんな抗議活動も暴力的に弾圧されると、今は理解しているのだという。

「私たちが抗議するためにできる唯一の方法は、技術やお金を持って国を出ることです。私たちの仲間はほとんど全員が同じような決断をしています」と、イーゴリさん(仮名)は言った。彼はトビリシで歓迎されていないと感じ、この街を離れるつもりだという。

米民泊仲介サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)で宿泊先を提供しているホスト側が、ロシア人やベラルーシ人に自分の物件を貸すことを拒否する事案が多数報告されている。

あるホストは、ベラルーシ人カップルに「ロシア人とベラルーシ人はお断り」、「あなたたちには休暇を取る時間なんてない。腐敗した政府に反抗して」と伝えたと、BBCに明かした。

「みんな、私たちがアップルペイが使えなくなったからロシアから逃げ出していると思っているんです」と、イーゴリさんは不満を口にした。「私たちは快適さを求めて逃げているのではありません。私たちはあそこ(ロシア)で全てを失ってしまった難民のようなものです。プーチンの地政学が私たちの生活を破壊してしまった」。

トビリシの公共サービスホールでは、新しくやってきた人たちが事業登録や住民登録の申請を行っている。

ベラルーシの首都ミンスクから来たITスペシャリストのクリスティナさんとニキータさんは、個人事業主として登録した。これでジョージアの銀行で口座を開設できるという。

「私たちは自国の政府を支持していません。逃げ出したのですから、支持していないのは明白だと思います」と、クリスティナさんは話した。「でも国籍を理由にいじめられる。出身国を隠さないといけないし、出身地を聞かれると居心地の悪さを感じます」。

戦闘が始まって以来、トビリシではウクライナを支援するための最大規模の集会が開かれている。最近の調査では、ジョージア人の87%がウクライナでの戦闘を、自分たちとロシアとの戦いとみなしていることが明らかになった。

ロシアがジョージアに侵攻してから14年ほどしかたっていないため、多くのジョージア人はロシア人の劇的な流入を不安視している。

プーチン氏が在外ロシア人の保護が必要だと主張するかもしれないと、危惧する人もいる。これは実際に、2008年にプーチン氏が南オセチアへの派兵を正当化するために口実として利用したものだった。現在もジョージアの領土の20%はロシアの占領下にある。

Ukrainian President Volodymyr Zelensky delivers his national address to his people.

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画像説明, 国民に向けて演説するウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。ジョージア人約3万人もゼレンスキー氏の話に耳を傾けた

しかし、技術系起業家のレフ・カラシニコフさんは、ロシアの現代史における最大規模の頭脳流出が起きていると断言。ジョージアがこの恩恵を受けることになるとみている。手続きのために列に並んでいる間、カラシニコフさんはメッセージアプリ「テレグラム」で移住者向けのグループを開設した。

「私の前に50人、私の後ろに50人いました。彼らが最初の登録者になって、今では4000人近いメンバーが集まっています」

メンバー登録した人たちは、宿泊先を探す場所や銀行口座の開設方法、人前でロシア語を話しても安全かどうかなどを話し合っているという。

エフゲニー・リャミンさんはすでに、ジョージア語の勉強を始めている。ジョージアの独特な文字をノートに書いて練習している。

「私はプーチンに反対しているし、戦争にも反対です。ロシアの銀行口座からはいまだにお金を引き出せないけど、ウクライナ人が直面している問題と比べれば何でもない」