【分析】 プーチン大統領、今後はメンツを保つ方法を探る ウクライナ侵攻

ジョン・シンプソン世界情勢担当編集長

Russian tank destroyed by the Ukrainian forces on the side of a road in Luhansk region 26 February 2022

画像提供, Getty Images

画像説明, ウクライナ・ルガンスクで同国軍に破壊されたロシア軍の戦車(2月26日)

最悪の戦争にも終わりは来る。時にそれは、1945年のように、死闘を戦い抜かなければ終わらないこともある。だが多くの戦争は、誰も完全には満足できない合意で終わる。それでも、少なくとも流血は止まる。

そして、最悪の激烈な紛争を経てもなお、双方がかつての、対立が緩和した関係を徐々に取り戻すこともよくある。

私たちは運が良ければ、ロシアとウクライナの間でこのプロセスが始まるのを目にし始めている。

怨念は、特にウクライナ側のものは、何十年も尾を引くだろう。だが双方とも平和を望み、平和を必要としている。ウクライナは市や町がひどい打撃を被った。ロシアは、ウクライナ大統領によると、チェチェンにおけるひどく激しい2度の戦争で失ったよりも多くの人と物を、すでに犠牲にした(それを確かめるのは不可能だが)。

しかし、自国の破滅につながるような和平協定に進んで署名する人はいない。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、面目を保つ方法を探っている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、すでに外交官としての並外れた技量を見せており、ロシアの介入を取り除くため自分と国民が受け入れられることなら、進んで言い、進んで行動するのは明らかだ。

ゼレンスキー氏には、譲れない点が1つある。ウクライナがこの恐ろしい経験から、結束した独立国家として浮上することだ。ロシアの一地方としてではなく。プーチン大統領は当初、ウクライナをロシアの一部にしてしまえると考えていたようだが。

プーチン大統領にとっていま大事なのはただひとつ、勝利宣言だ。この不必要な侵攻でロシアの面目が傷ついてしまったことを、たとえ政権内の全員が承知していようと、それは構わない。プーチン氏が自ら作り出した幻想にすべてを賭けた挙句、賭けに負けたのだと、実際の世界情勢を理解している約2割のロシア国民が承知していようと、それも関係ない。

プーチン氏にとっては、残る大多数の国民の支持を勝ち取れるかどうかが、勝負所になる。国営テレビが言うことを、ほとんどそのまま信じがちな人々の支持だ。驚くほど勇敢なテレビ編集者マリナ・オフシャニコワ氏が、国民が耳にしていることはすべてプロパガンダだと非難するプラカードを持って、テレビ画面に突然現れるといったことも起きてはいるのだが。

Marina Ovsyannikova holding up a poster which reads "No War", 15 March 2022

画像提供, Getty Images

画像説明, マリナ・オフシャニコワ氏(右)は15日夜、反戦を訴えるプラカードを持ってテレビ画面に映り込んだ

では、プーチン大統領が、ロシア国民の大多数の支持を得ながら、この悲惨な戦争から抜け出すにはどうしたらいいのか。

まず、ウクライナに近い将来、北大西洋条約機構(NATO)加盟の意図はないと、場合によっては同国の憲法に書かせて、確約を得ることだ。ゼレンスキー大統領は、すでにこれに向けて筋道をつけている。つまり彼は、NATOに無理な要求をした上で(ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定)、要求を拒否するNATOを批判し、挙句は、こんな対応をするNATOに加盟する価値があるのか、あえて声に出して疑って見せている。

巧妙で賢明な政治的ポジショニングとしては、これ以上のものはない。NATOは批判される。しかし、NATOは批判されても大丈夫だ。簡単に対応できる。そしてウクライナは、思うように行動する自由を手にする。

ただし、簡単なのはここまでだ。NATO加盟は諦められるとしても、EUにはすぐに加盟したいと願うゼレンスキー大統領とウクライナの切迫した思いに、上手に対応するのはもっと難しい。ロシアは、ウクライナのEU加盟にも、NATO加盟と同じくらい、強く反対しているので。ただし、それすらも迂回(うかい)する方法はある。

ウクライナにとって何より受け入れがたいのは、ロシアによる領土の簒奪(さんだつ)だ。ロシアはかつて友好協力条約に署名し、ウクライナの領土を保全すると厳粛に約束しているのだが、実際にはこれに真っ向から抵触している。

そのためウクライナは、2014年にクリミアをロシアに奪われた。このことを、ウクライナはいずれ何らかの形で、正式に容認せざるを得なくなるかもしれない。ロシアは明らかに、すでにロシアの実効支配下にあるウクライナ東部は手放さないつもりだし、それ以上にウクライナの国土を手に入れようとするかもしれない。

ヨシフ・スターリンは1939年、かつてロシア帝国の一部だったフィンランドに侵攻した。ロシア軍はあっという間に快進撃を果たすはずだと、スターリンは確信していた。プーチン氏が2022年にウクライナについて考えたのと同じだ。スターリンの将軍たちは、当然ながら身の危険を恐れ、最高指導者の言う通りだと約束した。もちろん、スターリンの言う通りにはならなかった。

冬戦争は1940年まで長引き、ソヴィエト軍は屈辱にまみれ、フィンランドは超大国に見事抵抗したことで相応の国民的誇りを手にした。フィンランドは領土の一部を失ったが、それはスターリンやプーチン氏のような専制君主がこうした戦争をやめるには、勝ったかのように見せかけなくてはならないからだ。

その見せかけのために、フィンランドは領土の一部を失った。しかしフィンランドは、最も重要で、最も不滅なものを維持した。自由で、自己決定できる国としての完全な独立だ。

現時点でウクライナは、ロシアの攻撃を実に次々と撃退しており、おかげでプーチン氏の軍は実行力に乏しい弱々しい存在に見えている。それだけに、今のウクライナなら、フィンランドのような勝利が可能なはずだ。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を陥落させ、これまで以上に多くのウクライナ領土を占領しない限り、ウクライナは1940年にフィンランドがそうしたように、国としての実体を維持するだろう。

ウクライナがクリミアと東部の一部を失うのは、苦く、違法で、完全に不当な損失だ。しかしプーチン氏が勝者となるには、これまで以上にはるかに破壊力の強い武器を投入しなくてはならない。戦闘開始から3週目に入った今の状況からして、この戦争の真の勝者が誰なのか、本気で疑問視できる人はいないはずだ。