9年前の年末、東京都内のとある公園でホームレスの女性が亡くなった。ブルーシートのテントに残されていたのは30冊以上のノート。極貧下、理不尽な暴力にさらされながらも、自分らしく生きた日々が記録されていた。有志の女性たちが文章を書き起こし、出版を目指している。(中村真暁)
◆ハイヒール姿の「小山さん」
亡くなった女性の本名は分からない。公園では「小山さん」と呼ばれていた。アフロヘアのかつらにハイヒール姿。生活保護も医療も拒んでいた。
2013年秋、体調が悪化すると、近くで野宿する女性たちが身の回りの世話をした。息を引き取ったのは12月27日早朝。65歳だった。
ノートは1991年ごろからつづられている。それによると、小山さんはもともと関西地方にいた。2000年ごろに都内で野宿を始めると、役所の職員からテントを撤去するように言われたり、同じホームレスの男性から暴力をふるわれたりした。小山さんの遺品を整理した野宿者仲間のいちむらみさこさんは「1人の野宿女性の暮らしや思いの貴重な記録」と感じ、数人でノートの内容を一部書き起こした。小山さんの1周忌に合わせて開いた追悼展で紹介すると、共感の輪が広がった。
◆「私、今日フランスに行ってくるわ」
いちむらさんら有志約10人は15年3月から月1度のペースで集まり、ノートの文字を書き起こす作業を続けた。
(ノートより抜粋) 私、今日フランスに行ってくるわ。夜の時間をゆっくり使いたいの…。美しい夕陽を見送り、顔が今日の夕陽のように赤く燃えている。(2001年6月26日)
メンバーの1人は、「私、今日フランスに行ってくるわ」という文章が印象的だった。小山さんは、有名カフェチェーンを「フランス」と呼んでいた。お気に入りの席でコーヒーを飲みながら、ノートに向かう時間を大切にしていたようだ。
ほかにも、路上で拾ったスカーフに心をときめかせたことや、美しい夕日に心を奪われていたことへの記述もあった。別のメンバーは「音やにおいまでもが詰め込まれ、映像を見るようでもある。ノートを通じ、小山さんとの対話に夢中になった」。メンバーたちはノートに登場する場所を訪ね、朗読しながら小山さんの心境を追体験した。
書き起こしの作業は最終段階に近づいている。メンバーたちは、小山さんの言葉が出版を通じて女性の慰めになればと願...
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