今はピンとこなくても、数年後には当たり前になってる。テクノロジーってそういうもの。
「バーチャルライブ」という言葉、今ではそう珍しいものでもなくなってきましたね。その視聴方式も、VRで見たり、YouTubeなどの配信で見たり、あるいはライブ会場現地のスクリーンを直接眺めたりと様々。ゆえに新しいことが模索されまくってる、アツい分野でもあります。
今年3月に、バーチャルアーティストプロダクション「RIOT MUSIC(ライオットミュージック)」が、リアルとオンライン中継の同時ライブ「Re:Volt 2022」を開催しました。そのライブでは昨今話題のNFTが配布されたんですが、その配布方法が「音響透かし技術」なるものを利用してるとかで、スマホをかざすだけでNFTを取得できたんです。しかも、オンラインで見てる人もスマホでNFTをもらえたんだとか! なんかもう、新しいことやりすぎでは…。
「NFTの配布ってどういうこと?」「VTuberとNFTを絡めてどうしようっての?」などなど、イメージしづらい部分があるのも事実。VTuberやNFTってだけでも知らない人が少なくない世界ですし、両方に理解がある人ってめちゃ限られるのでは?
などなどの疑問を、RIOT MUSICを抱える株式会社Brave groupの代表・野口圭登さん、およびRIOT MUSICのアドバイザーをつとめる、m-flo、block.fmでお馴染み、☆Taku Takahashiさんに伺いました。
RIOT MUSICの成り立ち、IPの最大化のためのNFT展開

──まずは野口さんへ、RIOT MUSICについて教えていただけますか?
野口さん:我々Brave groupは、約5年前から主にVTuber事業をやってきた会社で、RIOT MUSICは始まってから2年くらいのプロジェクトになります。そもそも弊社は「新しいIP(Intellectual Property)を作りたい」という思いから創業しました。テレビや漫画、アニメなど、いろいろな媒体からIPが生まれてきたと思うんですけど、僕らからIPを作りたいなと思って。
──YouTubeなんかは現代のメインストリームともいえる媒体ですね。
野口さん:そうなると、音楽とゲームの2つがジャンルとして大きいと思ったんです。Brave groupの中では、RIOT MUSICが音楽ジャンルを担当し、ゲームジャンルは「ぶいすぽっ!」というIPが担当しています。創業当時から在籍している「道明寺ここあ」というアーティストを中心に、新しいバーチャルアーティストプロダクションを作っていこうとしたのが発足したきっかけです。道明寺ここあを主軸に事務所化したような感じですね。
──RIOT MUSICには他にどんなアーティストがいるんでしょうか?
野口さん:6アーティストが在籍しています。それぞれテーマをもって活動しているんですが、今後も新しいアーティストは追加予定で、現在もオーディションをすすめています。ちょうど先日サブレーベルを分けて、RIOT MUSICという大きなプロダクションの中でアーティストレーベル、タレントレーベル、IPレーベルみたいな区分けを設けることで、アーティストごとに相性が良いレーベルに振り分けるようにしました。例えば配信をメインに活動したい子はこっちのレーベル、オリジナル曲を中心に活動をしたい子はこっちのレーベル、という感じです。今まだ準備段階ですが。
Taku:そうやってレーベルを分けようとしたきっかけは何だったんですか?
野口さん:これからRIOT MUSICが大きくなっていくことをイメージした時に、現在所属してる6人でも個性がバラバラなんですよね。「私はこういうことをやってみたい」と、自分たちの思いを言ってくれるようになってきたのもきっかけです。いずれRIOT MUSICが20人〜30人の規模になったときも、全員が同じ方向を向くライブもありつつ、普段の配信コンテンツはそれぞれのやりたいことをやったら良いんじゃないかなと。毎日会いに行ける推しのアイドル=VTuberだと思ってるので、普段の活動もレーベル分けすることで、方向性の違いも出しやすいかなと考えました。
──☆Taku Takahashiさんは、RIOT MUSICを抱えるBrave groupのアドバイザーをつとめていらっしゃいますよね。どんな風に関わっているんでしょうか?
Taku:今回のテーマでもあるNFTの話でいうと、どういった人たちやどういった会社と一緒にやったら面白いかの相談に乗ったり、他には音楽リリースの方法や海外展開などについて、僕の経験上でアドバイスをしたりという感じです。僕ももともとは音楽を作る人間なので、楽曲提供のような機会もあれば良いねと話したりしています。

──今回は「VTuberのライブでNFTを配るってどういうこと?」というのを切り口にお話を聞いていきたいと思うのですが、野口さん自身はNFTに関心はありましたか?
野口さん:IPの価値をどうやって最大化するか、これを考えた時にNFTは面白いのではないかと思って。自分なりに調べていくと、IPホルダーとしてのうちの事業とも相性が良さそうですし、OpenSea(NFTのオンラインマーケットプレイス)とかを見てるとjpgの画像1枚であれだけ熱狂があるのって、ある種異常だなとも思って。
NFTの規模は2019年には300億円くらいだったのが、今では2兆円くらいになってるらしいですよ。Crypto(暗号通貨)市場は時価総額で250兆円にもなってるみたいで、日本の時価総額=約750兆円と比べてもすごい規模感だなって。
でも、CryptoユーザーはエンタメがNFTしかないと思ってるみたいで、だからjpgの画像であれだけ熱狂してるんじゃないかと僕は思うんです。なので、そうしたNFTの文脈に僕たちが作ろうとしているバーチャルIPを組み合わせると、新しいエンタメのひとつとしても認知してもらえるんじゃないかなと。例えばCryptoで投げ銭できるようになるとか。

──投げ銭のあたらしいかたち。
野口さん:そういうことができても面白いなと思いますね。今後出てくるであろうWeb3.0周りでのエンタメの一端を我々が担えればなとも思いますし、そのためにもNFTを活用した取り組みには積極的になりたいですね。BTSとかBLACKPINKとか、そうしたポップスターのメタバース版のようなものを、会社として作りたいなと考えています。
Taku:RIOT MUSICがNFTに関心があると聞いた時も早い時期からやってるなと感じてたし、そもそもそれ以前から取り組んでいた「アーティストをIPにする」っていう概念が、すごく良いなと思って。バーチャルYouTuberやバーチャルアーティストって概念は珍しくないんですけど、それをIPまで持っていくって考え方は今特に重要だと思うんですよ。いち早くそれをやっているのがRIOT MUSICですよね。バーチャルYouTuberにもいろんなタイプのアーティストがいるけど、個々のアーティスト性を見せようとしているのが他と違うなとも思います。そんな流れで「面白いことやってるね」ってLINEをしたのが関わりのきっかけです(笑)。
野口さん:ありがたいことです(笑)。VTuberを見てる人ならわかると思うんですけど、ライバーも動画勢も全部まとめてVTuberって呼ぶじゃないですか(※)。僕らはライバーではなく、プロデュースをしていきながらアーティスト性を担保することでIPを作るようなやり方を心がけています。なので、昔はVTuber事業と呼んでいたんですけど、今ではバーチャルIP事業と呼んでいます。
※ライバーは数時間のライブ配信をメインに活動する人のことを、動画勢は編集した数分の動画を投稿する人のことを言う。ギズモードは動画勢。
──そこの意識転換というか呼称の変更、すごくグっと来ました。
野口さん:わかりやすい言い方は、“VTuber”の方なんですけどね。あくまでも新しいアーティスト、新しいIPを作っていきたいと考えています。僕らがYouTubeを始めた5年くらい前は、新しいバーチャルキャラクターを作ったらそれを最初にYouTubeに出すのが普通だったんですけど、今はYouTubeだけでなくNFTのプラットフォームだったりTikTokだったり、そっちに出しちゃうのもアリな時代かなと。ちょっとジャンルは違いますけど、そうしたことをいち早くやったのがShinsei Galverseですよね。IPを作ってOpenSeaで出して成功した事例として。
Shinsei (新星) = nova / new star
— 新星 ? Shinsei Galverse (@galverseNFT) March 6, 2022
Galverse (ギャルバース) = gal x metaverse x universe
?8,888? new stars shooting across the universe to bring peace to all people and cultures.
If you like our project, please share it with your friends!#Galverse#NFT#nftart#animepic.twitter.com/1oavnaYFfI
──「最初がYouTubeじゃなくて良いよね」となると、VTuberのTuber部分はなんぞやともなってきますね。
Taku:確かに(笑)。YouTubeを辞めるわけじゃないけど、そこだけにこだわるわけでもないですしね。
NFTはポイント交換のごとく身近な存在になる?
──VTuber業界全体を見たとき、NFTへの意識は現状どのような段階だと思われますか?
野口さん:まだ一合目にも来てないように感じますね。今のVTuberファンでNFTを購入してる、あるいはCryptoを持ってるという人は、めちゃくちゃ少ない印象があります。僕らはそこの裾野を広げたいなと思っていて、言い方はアレなんですけど、ファン教育をしたいなとも思っていて。
──大事です、ファン教育。
野口さん:ファンからすると「この画像が手に入るなら、ウォレットとかいうアプリを入れればいいの? まぁやってみようかな」と、今はそんな段階かなと感じています。
Taku:教育というと強い言葉になっちゃうけど、ファンに新しい機会やサービスを紹介してる感じですよね。「コレがあるといろいろ新しい体験がまってるよ、どう?」くらいのニュアンス。今年になってMetaMaskがApple Payに対応してEthereumが簡単に買えるようになったけど、以前は暗号通貨ひとつ買うのもすごく手間でしたから。もはやポイントを買って商品を買うのと等しいシンプルさにまで引き下がっていて、時代がシフトしてる今の時点で布教に精を出すのは大事だと思います。
──暗号通貨やNFTに対してそこまで身近な感覚を持っている、あるいは、ゆくゆくは身近に使えるんだろうなと見据えてる人って、やっぱり多くないでしょうね。そこの布教役として、いっちょ頑張ってやろうかと。
野口さん:仰るとおりです。先日開催したライブ「Re:Volt 2022」では、音響透かし技術を用いてNFTを配布する試みを実施しました。そこで初めてNFTのウォレットを知った人も多いと思います。

──ウォレットを持ってる人だけがNFTを手に入れられるわけですね。具体的にはどんなコンテンツを配布したんですか?
野口さん:NFTを入手した人だけに限定の画像を配布しましたが、ライブが終わった後日にも、NFTを持っている人だけに特別な画像や動画を別途配布しました。RIOT MUSICにはDiscordのファンコミュニティがあるんですけど、そのDiscord内で「こんな画像持ってるよ」とか「その画像どうやってゲットしたの!?」「NFTのアプリ、面倒くさくてインストールしなかったんだよなぁ」みたいなやり取りが見られたので、コミュニティの活性化にも繋がったみたいです。

──ファンとしては、持ってない画像があるという状況は悔しいですし、次こそはインストールしておこうとなっちゃいますね。そもそも、NFTの配布を思いついたきっかけはなんだったんでしょうか?
野口さん:我々はファンビジネスをやってるので、ファンの方々にIPを楽しんでもらいたいのが大前提です。最終的には自社でトークンを発行して、例えばRIOT COINみたいなもので投げ銭をしていただけるようになれば、それはそのまま弊社やアーティストへの投資になり、コインの価値も投げれば投げるほど上がっていきます。こうしたWeb3.0的な循環の構築が最終目標ですね。そうした未来への第一歩として、ウォレットという必須アイテムを持っていただくというのが今回のNFT配布のねらいのひとつでした。NFTの取得方法も、スマホを音にかざすと何かデータが届くという、わかりやすさと未来っぽさがある方法を選びました。
──RIOT COIN、かなり大きな野望ですね…。
野口さん:本当に大きな野望です(笑)。でもこれからは、IP×トークンみたいな暗号通貨もあるかなと。
Taku:それってすごく時代を見据えてますよね。例えば従来の流れでいうと、BTSがあそこまでヒットした要因のひとつに、ARMYと呼ばれる彼らのファンによる熱烈なプロモーション活動があったはずじゃないですか。いわばファンの中でもコアなファンが確実にいて、その人たちがBTSの楽しみ方を教えてくれたり認知を広めたりしてくれている。そうしたコアファンへのインセンティブは、今までだと知ってもらえるだけで嬉しいとか、それくらいだったと思うんですよ。でも、現代のテクノロジーを使えばそこに対してさらなるインセンティブを与えられるかもしれない。コアなファンしか持っていないものの価値が上がるとか、似たようなことってデジタル以前にもあったじゃないですか。
──アイドルの昔の頃のプロマイドとか、ライブ会場での先着○名限定のアイテムとか。
Taku:そうそう。そうした動きって、これから当たり前になっていくと思うんですよ。当たり前だったものが当たり前じゃなくなる、そしてその逆も然りだと思うんです。
野口さん:株主優待じゃないですけど、サポートしてる自分の好きな会社があって、その会社のサービスを受けられるっていう構図は、応援したい気持ちとインセンティブの関係が成り立つじゃないですか。これがエンタメやファンコミュニティにあってもおかしくないですよね。
Taku:株って概念は応援や支援であると同時に投資も目的になってくるけれど、僕は投資目的も悪いことじゃないと思う。重要なのはファンに対してインセンティブを与えられるかであって、なんなら一番株を持つべきはコアなファンの人たちですから。
野口さん:今ぼくたちが配布しているNFTは、遊戯王カードでいうところの最初期のブルーアイズホワイトドラゴンだと思うんです。当時はお小遣いで買えたりプロモーションカードとして枚数限定で配られていたものが、今では何百万円のプレミア価格になってるじゃないですか。我々もこれからNFTをどんどん出していきますし、そうなると初期の頃の作品の価値はどんどん上がってくるはずなので、ファンにはそこも楽しんでもらいたいですね。
──今までで一番わかりやすい説明に感じました。高額な遊戯王カードの取引ってもはや骨董品の粋ですし、NFTがピンとこない人にはトレーディングカードで例えれば、初期生産品や限定品の貴重さが伝わりやすいと思います。「ゲットしなきゃ!」という気持ちにもなる。
野口さん:そのためにも我々が継続し続けることが重要ですし、これが我々のエゴではなく、ファンのために繋がるということを、いち早く伝えたいと思っています。今回のライブでのNFT配布は、まさにその大きな野望への小さな一歩になるはずです。

音響透かしを使った理由は、未来っぽかったから
──改めてになりますが、「Re:Volt 2022」では音響透かし技術を用いてNFTを配布されていました。この技術について教えて下さい。
野口さん:音響透かしという技術自体は弊社の技術ではなく、パートナーであるSUSHI TOP MARKETINGとEvixarという会社が共同開発したものになります。Audio Token Distributor(オーディオトークンディストリビューター)というソリューションになりまして、非可聴域の音をトリガーとして、スマホなどのデバイスがその音を検知するとNFTが取得できるという仕組みです。
──NFTを配布するという目的であれば、例えばQRコードを読み取るとかURLにアクセスしてもらうとか、他にも方法はあったと思うのですがどうして音響透かしを使ったのでしょう? なんともマニアックでニッチな手法だと思うのですが…。
野口さん:ひとつは弊社が音楽に関する事業をやっているので、音に関するシステムが似合うなと思ったのと、あとはもうシンプルに自分が試した時に「これすごくない!?」と感動したからです(笑)。
Taku:スマホ決済や改札機とかで、スマホをピっとかざす動きってもう当たり前じゃないですか。でも音響透かしだと「ここにいるだけでデータが来たんだけど!」っていう新しさがあったんですよね。ライブ当日、野口さんやVERBALと一緒に体験したんですけど、スマホを見てると「おぉ、データ来た!」みたいな感じで興奮しましたね。子供の頃にネットの世界にアクセスできたときのワクワクにも似た感覚があって、あれは面白かったなぁ。
──NFTの配布について、ファンからの反応はどうでしたか?
野口さん:「NFTって何?」という反応がもっとも多かったですね。他にも「やり方がわからない」というツイートもかなりあって。なので、ファンとしても困惑してるんだろうなとは思いました。
Taku:正直ですねぇ(笑)。
野口さん:まだまだNFTやウォレットというものは浸透してないんだなと改めて感じましたね。今回はライブ会場だけでなく自宅から配信で見てる人にもNFTがもらえるようにしてたんです。体験としてもすごく新しかったでしょうし、困惑した声の他にも「すごい、新しい!」とか「RIOT MUSICはどこ目指してるんだ?」とかもありました。
Taku:“今”は困惑を与えるようなニッチなことでも、続けていくとそれが普通になっていく時代が来てもおかしくない。とはいえどの方向に時代が進むかまではわからないし、どのCryptoが生き残るのか、どのNFTや暗号通貨のプラットフォーム、メタバースが生き残るかとか、そこまではわからない。ただ、どこかしらの方向には向かっていくのは重要ですよね。ぶっちゃけた話、お金もすごいかかったでしょ?
野口さん:えぇ、まぁ(笑)。
Taku:こういう未来志向な挑戦って、すぐにお金として返ってくるわけでもないじゃないですか? それでもチャレンジしようとする姿勢は、僕はクリエイターとしてすごく共感できますね。
──「LINEで友達登録すると500円引き」みたいなことすら面倒臭がってしまうのが人類ですし、そこに対して新技術や新アプリを提案するのは、簡単なことではないと思います。でも、何度も繰り返していけば「Brave groupはこういうことやるんだ」と認識されてくるでしょうし、これはもう月並みですが、継続は力なり、ということかと。
野口さん:本当にその通り、継続は力なりだと思います。
Taku:一番早くに新しいことをやっちゃってるからこそ、戸惑いも生まれてきますよね。でも、この分野の第一人者として頑張ってもらいたいなとも思います。
野口さん:初期から僕らのNFTを受け取ってくれてる人に、それこそ初期のブルーアイズホワイトドラゴンのカードみたいに価値あるものと感じてくれるように続けていくしかないですね。「あの時ビットコイン買ってたら良かったなぁ」とか、そう思ってる人は多いはずですから。

ライブのお土産にNFT。そんな時代も?
──“NFT”や“メタバース”のような新用語も増えてきましたけど、こうした新技術の登場や循環も、2010年代に比べて速くなってきたように感じます。それこそVRはデバイスの所持率こそ少ないけれど、認知率はかなり高くなってきてます。RIOT MUSICの試みも、それほど遅くない速度で「当たり前化」するような気もしていますが、楽観的でしょうか?
Taku:テクノロジーの発展は加速度的ですし、そこにコロナが苦肉にも追い風になってるのがここ数年ですよね。ムーアの法則を超えてるのか、はたまたこれこそがムーアの法則なのか。なんにせよすごい速度で発展してるのは事実。
ギズモード編集長 尾田:今ってすごく円安ですし、製造業や流通・物流は今まで通りのレガシーなやり方だと行き詰まってるんだと思うんですよ。そのタイミングでバーチャルに挑戦するのはメリットがあるとわかっていても踏み出せないのが現状で、そうしたリアル環境のフリクションをブレイクスルーさせるアイデアは、ファンにとっても幸せなことだと思いますね。
──これは僕の感覚なんですけど、ライブに行っても物販でグッズやアパレルを買うのが苦手なんですよ。でも、モノを買わないとライブに行ったっていう物的証拠が残らないので、寂しい。
Takuさん&野口さん:あ〜なるほど!
──音源は持ってるしシャツはデザイン次第ですし…。なのでスマホでライブの様子を撮影できる風潮は大歓迎なんですけど、写真よりももうちょっとお土産的なサムシングが欲しいのも事実で。高価じゃなく、断捨離対象にならず、かつタイムラインを感じられる何か。で、それってタイムスタンプが付いたデジタル証明書とか、ここに来ましたよっていうトロフィーとかバッジのようなモノが代替になるのでは…と、お話を聞いて感じました。
野口さん:それは面白いですね。所有することを重荷に感じる層もいますし、そういう層が増えれば「え、このライブはNFT配ってないの?」とか、そんな世界が来てもおかしくない気がしました。
Taku:アーティスト側からすると、物販を買ってくれたり保管してくれるのはすごくありがたいんですけど、一方で在庫や制作費もかかってきますし複雑なんですよね(笑)。
──物販の売上が重要なのは重々承知しております…! なので、ライブでのNFTは、受け取る側にとってコストなく持ち帰れる体験の証というかお土産というか。そんなものになると面白いなぁと。
野口さん:トークングラフマーケティングという言葉もあるように、いろんな人にRIOT MUSICのNFTを配布すれば、その人のウォレットにRIOT MUSICが侵入できるとも言えるんです。そのウォレットを見ればほかにどんなNFTを所有してるのかがわかるし、どんな傾向の人がうちのファンになりやすいのかなど、マーケティングにも繋がります。ファンを分析すれば、こういうNFTだと喜んでもらえるんじゃないか、こんなグッズはどうか、とか。あくまでビジネスの観点ですがRIOT COINという野望はここにも繋がってきますね。
エンタメとNFTは今後どう発展していく?
──RIOT COINという野望は、ファン目線でもプロダクション目線でも面白い未来に繋がりそうですし、ファンビジネスのインセンティブとしても理にかなってるなと感じました。これから先、音楽コンテンツとNFTの繋がりはどうなっていくと思いますか?
Taku:今は過渡期だと思います。Spotifyも名乗りを上げたし、いろんなジャンルのアーティストがNFTとして音楽作品をリリースし始めた。でも現実的にありえそうなのはファンクラブ的な運用というか、サポートをしてる証がデジタル化してるっていうとこなんじゃないかなと、僕は考えてます。いまのNFT界隈を見てると画像ばっかりで、音楽はほとんどありません。
ちょうどCryptoに詳しい友達と話したばっかりなんだけど、アートを所有する概念と音楽を所有あるいは楽しむ概念って根本から違うので、NFTにおいてはアートの方がハマったと思うんです。でも、音楽のNFT化は避けられない動きだと思います。そこで重要になってくるのは、体験をデジタルだけでなくフィジカルにつなげることなんじゃないかなって。ぶっちゃけ言っちゃいますけど、例えば今1000万円で買ったNFTアートは、10年後にどうなっているか。僕は1000万円以下になってると思います、確実に。
──NFTアートの持続性や資産としての堅牢性などは、技術的にも権利的にも議論が煮詰まってないのが現状かなと僕も感じています。極端な話、そのプラットフォームが2〜3年後あるかも怪しい…。
Taku:そう。ただし、そのNFTアートに付随するものの価値が1000万円以上になる可能性は、十分ある。付随するものとは、権利だったり記録だったり、いろいろ。
あ、もちろん僕はNFTアート全体の価値を貶めるつもりはまったくないですよ(笑)!
──音楽においてのフィジカルといえば、聴く、盤を所有する、とかですかね?
Taku:画像の場合も、視覚で見るという意味ではフィジカルですね。例えば限定ライブに行ける権利とか、コミュニティに参加できるとか。特定のNFTを持ってる人だけが入れるメタバース空間はもうすでにありますよね。やっぱり株主と株主優待券みたいな関係性になってくるんだろうなと思います。
適切な例えかはわかりませんけど、例えばゲームソフトのパッケージ版とDL版。パッケージ版の利点は中古ショップに売りに行けること、DL版の利点は欲しいと思った時にすぐに買えること。
──デメリットは、パッケージ版はモノとして購入や保管する手間があり、DL版は手放したいときに売れないという点でしょうか。
Taku:そうそう。で、音楽もDLが主流になってるけど、DLするひとつひとつの音楽データにシリアルを付けてNFTにできるとする。そうすれば、中古ショップに売りに行くように音楽データをセコンドハンドとして売りに出せるかもしれない。セコハンの流通でもアーティスト側にお金が発生したり、価値やランキングが上下してくれば、ビジネスとしても無視できないんじゃないかなと思ってます。
野口さん:アーティストの方々の価値がNFTによって上がるなら、それはシンプルに良いことだなと思います。僕たちはNFTはあくまで手段のひとつとして認識していて、その根本はIPやアーティストをもっと世に出すことなので。その施策のひとつがNFTという認識です。NFTを購入する時って、その画像やデータが欲しいかどうかだけでなく、誰が作ったか、どうやってどんな意図で作られたか、その背景が殊更に重要視されてると思うんですよ。
──むしろそちらの方が本体より重要視されてるまであると思います。ゆえにアートとの親和性が強いというか。
野口さん:アーティストなら、NFTを通してまた違った見方をしてもらえるんじゃないかとも思いますし、素人ながらそれは良いことなように思いますね。
Taku:アート作品だけでなく、その制作者をサポートしてる感じはありますね。
──だからこその熱狂ですよね、NFTアートは。
Taku:さっき話に挙がったShinsei Galverseは、アニメーターの大平彩華さんが作ってるんですけど、作品から大平さんが見えるじゃないですか。“この人が作ってるからサポートしたい”っていうのが大事なんだと思います。逆にいうとそれなしに、絵を描きました、音楽を作りました、それをNFTにしましたってだけでは成功しないと思う。
──応援したくなるという気持ちが重要。それこそ、RIOT MUSICが目指すものとシンクロしてきます。
野口さん:応援したいって気持ちは、Web3.0のキモだと思うんです。それは画像や音楽といった作品をチェックするだけでなく、作っている中の人のことを深く知ることで思い到れる部分でもある。どういった思いでその曲を作ったのかを知るだけで、音楽の受け取り方はまったく変わってくると思うので。
──なんならアーティストが所属するプロダクションも含めて見ちゃいますよね。どういった情報を発信しているのか、どんなテンションのプロダクションなのか。
野口さん:弊社には武田PというRIOT MUSICのプロデューサーがいるんですが、先日新宿でのライブ後にステージに来たら「武田Pだ! 握手してください!」とファンの人に言われたそうで(笑)。
──名物Pってやつだ!
野口さん:最初期から見てくれてるファンは運営までも見てくれていて、暖かい言葉をいっぱいかけてくれるんです。それってもう、本当に嬉しいですね。
──そうした初期の頃から見てくれてる人には、なにか特別な恩返しをしたいと思うのが人情ですよね。なのでライブでNFTを配れば、いつのライブに行ったか、何年前から来てくれてるかがデジタルで証明されてありがたいなと思いました。今まではグッズで古参アピールしていたのがデジタルになったような感じですかね。
Taku:僕もアーティストとして感じるのは、もちろんいつからファンになってもらっても嬉しいんだけど、昔から見てくれてる人には改めてありがとうって伝えたい。NFTはそこの関係性を作りやすいけれど、同時に発信のやり方も大事になってくると思います。優劣を付けすぎるのはもちろん良くないですし、そこのバランス感覚が大事になってくるはず。なんせ新しい技術だからいろんな問題や課題が出てくると思いますよ。
──まだまだ一合目にも行ってない分野ですしね。
Taku:悲しいのは、NFTという言葉が救世主のようなバズワードになっちゃうことですよ。「NFTやメタバースで全部が解決!」みたいな喧伝をされちゃうと、いやいやそんなに世の中甘くないよと。ビジネスはそんなに簡単じゃないし、なんならその反動で「NFTって全然ダメじゃん」って空気になるのも嫌だし。
野口さん:一朝一夕でできるものじゃないですよね。だからこそそのアーティストを昔から知ってる人たちからすれば、NFTになってさらに推せるとも言える。
Taku:m-floとしてデビューする前、1995年くらいに時にメディアの人と話したときの思い出話なんですけど。当時インターネットといえばISDNで、ダイヤルアップ接続の時代だったんですよ。その人は「インターネット? あんなのダメダメ!」って言ってて(笑)。それこそ当時は「インターネット」は超パワーワードだったんだけど、回線速度はまだまだ遅かったから、全然ダメじゃんっていう風潮もあったんですよ。
同じように、NFTもあくまでも新しいツールであって、魔法の杖じゃあないってことは忘れちゃいけない。結局は汗かいて頑張らなきゃいけないのは間違いないから。
──その頑張りの部分こそ、一朝一夕では結果が出ないものでもある、と。
野口さん:やっぱり、やり続けるしかない、これに尽きますね。僕らが提案してるものがファンの皆さんにとって価値あるものになることを僕たち自身も信じ続けないといけないし、かといってこうしたことをダイレクトに伝えてもサムいものがありますから。あくまでも主語はファンであり、僕たちは機会を提供してるにすぎません。「このアプリを持ってると限定画像がもらえますよ」と、ここまでは言いますけど、ここから先の価値や体験は僕らの頑張り次第ですから。