最近明らかになった「歴史の彼方に埋もれていた事実」7選

  • 59,743

  • author かみやまたくみ
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
最近明らかになった「歴史の彼方に埋もれていた事実」7選
Image: J.S. Oliver, Homa Peninsula Paleoanthropology Project, Loren Davis, Stimpson et al., Antiquity 2022, Wikimedia commons

流れる時の中で、さまざまなものが忘れ去られていきます。この世のほとんどの出来事・事物は後世に残りませんが、発掘や調査によってすくいあげられるものもなくはありません。

この記事では最近判明した「忘れ去られた過去の出来事や想い」をピックアップして紹介します。


1. 「少年のミイラ」に秘められた想い

3(1)
石棺の中にミイラの外棺が2種類入れられています
Image: SN Saleem, SA Seddik, M el-Halwagy

エジプトのNag el-Hassayでかつて1体のミイラが発見されました。ずっと棺に入れられたままでしたが、先日、CTスキャン技術を用いて「中」が確認されました。遺体の様子が明らかになり、49個もの副葬品も発見されました。

このミイラは「少年」でした。身長は約127cm(現在の日本の15歳男性平均身長が168cm)。約2,300年前に生まれ、社会的・経済的地位は高かったものの、若くして亡くなっています。

高い社会階級に属していたと推測された根拠は、その豪華な埋葬品です。金色のフェイスマスクをしていることから、つけられた愛称は「ゴールデン・ボーイ・ミイラ」。

21種類ものアミュレットが一緒に埋葬されており、そのうち30個はなんと黄金で作られていました。さらに驚くべきは、それらが見つかった場所です。棺の中からだけではなく、少年の体の中からも発見されているのです。口の中には黄金の舌の形をしたアミュレットが埋められていたそうです。

研究者は次のように語っています。

「ミイラを包む布の”ひだ”の間とミイラの体腔内には、49個のアミュレットがユニークな3列の美しい様式で、広範囲にわたって飾られていた」

「ミイラを作った人たちは体を保護し、死後の世界で活きる力を与えたかったのです」

舌を象った黄金のアミュレットも「あの世でもおしゃべりできるように」という願いが込められていると考えられています。


2. 最古のオルドワン石器、作ったのは「ヒト」ではない?

230214Oldowan2
Nyayangaで発見されたオルドワン石器の一部
Photo: T.W. Plummer, J.S. Oliver, and E. M. Finestone, Homa Peninsula Paleoanthropology Project

ケニア南西部で、非常に古いオルドワン石器(2万年頃までアフリカなどで作られていた打製石器)が発見されました。作られたのは300万年~258万年前とされ、最古の部類となります。

加えて、絶滅した人類の近縁種「パラントロプス」の歯も発掘されたことが注目されています。

「石器と一緒にパラントロプスを見つけたことで、石器を作ったのは誰なのかという興味深い謎が浮かび上がる」

上記はある古人類学者のコメント、石器を作ったのがバラントロプス属、つまりはヒト属ではない可能性を見ています。

「研究者たちの間では長らく、石器を作る能力を持っていたのは現生人類が属するヒト属だけだと仮定されていた」

ホモ・ファーベル(工作人)という言葉があるように、道具を生み出せる創造性は「人間」の特徴ですが、こういった能力が仮定よりも古い能力であったかもしれないわけです。

230214Oldowan3
発掘現場で発見されたパラントロプスの大臼歯
Photo: S. E. Bailey, Homa Peninsula Paleoanthropology Project

バラントロプスたちが動物の肉を生食していた可能性も浮上しています。切断痕のあるカバ科やウシ科の動物の骨なども出土していて肉食が行なわれていたと見られるのですが、火の使用は約40万年前からと考えられているためです。

230214Oldowan(1)
ケニアの発掘現場Nyayangaで作業する発掘チーム

「東アフリカは私たちの種の先祖にとって安定した揺りかごではなかった」

「どちらかというと豪雨や干ばつに、多様で絶えず変化する食事のメニューを伴う環境変化の煮え立つ大鍋だった」

上述の古人類学者は、こういったコメントもしています。


3. 楽聖・ベートーヴェンの遺髪から明らかになった5つの新事実

Shutterstock_1378765040
Image: Arcady / Shutterstock.com

「ベートーヴェンは20代後半から難聴が進行し、1818年を迎えるころには生活上必要な聴力を失っていた。そんな有名すぎる逸話も含めて、調査では主にベートーヴェンが生前患った病の正体に迫りたいと考えた」

そんな動機から、独マックスプランク進化人類学研究所でベートーヴェンの髪の毛のDNA鑑定が行なわれ、以下が明らかになりました。

①親類縁者に代々受け継がれた「ベートーヴェンの髪」には別人のものが混じっていた

②鉛が検出され、鉛中毒説の元になった髪の毛は別人のものだった。鉛中毒から難聴になったという通説はとりあえず誤り

③遺伝的に肝臓が弱く、黄疸を2度経験。晩年はB型肝炎だった(酒乱も相まって死期を早めた可能性がある)

④生前、腹痛、下痢で苦しんでいた

⑤婚外子またはその子孫である可能性がある

通説が否定されたのがまず驚き、死因についてはいろんな時期の本人の髪の毛を鑑定する必要があるそうです。

⑤は「そんなこともあるんだぁ…」という結果ですね。父方の先祖とベートーヴェンの髪の毛から抽出したY染色体が一致しなかったそうですが、これは家系のどこかで外部の男性の血が入った(婚外交渉があった)と見るのが自然らしいです。


4. 約1万5700年前、ものすごく古い尖頭器が示唆する「つながり」

230106stone(1)
クーパーズ・フェリーのエリアBで発見された尖頭器
Image: Loren Davis

米アイダホ州にあるクーパーズ・フェリー遺跡では石細工や動物の骨などが数多く見つかっています。2012〜2017年には有茎尖頭器(先端を鋭く尖らせた打製石器)が発見されているのですが、以前に見つかった石器類より数千年も古く、1万5785年前のものだとわかりました。

この尖頭器には1万6000年~2万年前の日本の北海道から出土したものと類似しているという指摘があります。氷河時代の北東アジアと北アメリカの人々との間に文化交流があったかもしれない、とも。

技術がどのように共有されたかや、遺伝的類縁性がどうなっているかなどを解明するのに役立っていくのかもしれません。


5. 解読された暗号から浮かび上がる、スコットランド女王メアリーの悲劇性

ezgif-3-ef76f6e36d(1)
スコットランドの女王メアリーの肖像画
Image: Wikimedia commons

廃位されたうえに国を追われ、最後はエリザベス1世の暗殺計画を支持したとして斬首刑に処されたスコットランド女王メアリー・ステュアート。そんなメアリーが書いたとされる手紙が57通見つかり、解読されました。

ezgif.com-webp-to-jpg2
各暗号を解読した図表
Image: 2022 Lasry, Biermann, Tomokiyo

手紙にはメアリーが連絡をとる際に使っていた暗号文字が使われていて、専用の暗号解読表も作成されました。15万文字を解読のために書き写すのも大変だったそうです。

手紙の中ではフランシス・ウォルシンガムという人物が頻繁に登場し、否定的に書かれていることが明らかになりました。メアリーは彼を本心を隠して好意的にふるまう狡猾な人間だとしていました。このウォルシンガムはエリザベス1世の主席秘書官、後年メアリーは警戒していた彼によって処刑に追い込まれることになります。

またメアリーはフランスに見捨てられたと感じていたようです。息子のジェームズが誘拐された際にフランスに助けを求めたものの、反応は納得がいくものではなかったそうです。


6. 「人魚のミイラ」に科学のメスを入れてみた

230214_mummy
Image: 倉敷芸術科学大学

倉敷芸術科学大学は、2022年2月2日から、岡山県の圓珠院に保存されている「人魚のミイラ」を科学的に分析するプロジェクトを行なってきました。先日、その結果が発表されました。

「人魚のミイラ」の頭部には哺乳類の体毛が生えていて、歯は肉食性の魚類の顎のようです。腕と肩、首から頬にはフグ科魚類の皮が貼られていました。指は5本、爪には角質があり、人間に似ています。

下半身はウロコに覆われていて、背ビレ・腹ビレ・臀ビレ・尾ビレがあります。ヒレ類を支える担鰭骨、尾部骨格まであるとのこと。体表には、砂や炭の粉を糊状のもので溶いた塗料で塗られていました。

内部には布、紙、綿などが使われていて、首の奥と下半身に金属製の針が見つかりました。

1800年代後半ごろに漆喰様の物質を土台に詰め物をして紙を積層、魚類の皮で覆って作ったもの」というのが結論でした。

残念ながら人魚ではないようですが、当時の職人の技術が垣間見える貴重な文化財であることはまちがいないのではないでしょうか。


7. 古代エジプトで描かれた、あまりにも写実的な鳥たちの絵の話

221228Amarna(1)
(左から右の順)カワラバト、セアカモズ、タイリクハクセキレイ、カワラバト、ヒメヤマセミ、カワラバトと推定されています
Image: Stimpson et al., Antiquity 2022

古代エジプトはアマルナの王宮にはかつて、実に見事な壁画がありました。描かれているのは鳥たち、古代エジプト芸術と聞いて思い浮かぶ美術様式とは異なり、極めて写実的なものだったといいます。

ヒメヤマセミ、カワラバト、ワライバト──研究者たちが3,300年という時を越えてその種類を特定できたほど、描写は忠実だったそうです。

残念なことに、元の壁画はもう存在しません。壁画を保存するための試みが裏目に出て、「作品を変色させ黒ずませてしまった」んだとか。