岸田文雄首相長男の翔太郎首相秘書官が、昨年末に首相公邸内へ親族らを招き、忘年会を開いていたことが週刊文春に報じられた。写真を見る限り悪ふざけが過ぎる場面もあったようだが、首相は「注意した」として、更迭まではしない考え。英国やフィンランドでは官邸・公邸内のパーティーが首相退陣にまで発展したが、日本政界の身内への甘さが際立った格好だ。世襲あり、お友だち優遇あり、の緊張感なき政治は何をもたらすのか。(大杉はるか、中山岳)
◆与野党が「息子に甘過ぎ」「適切とは言えない」
「報道は年末、親族の来訪時のもので、私も私的な居住スペースに一時顔を出しあいさつした。一方、公的スペースで報道のような行為があったことを認識したため、本人に厳しく注意した」
26日の参院予算委員会で釈明した岸田首相。前日に記者団に「更迭しないのか」と問われ、「緊張感をもって対応してもらいたい」と続投させる意向を示していたが、あくまで「注意」で済ませる気のようだ。立憲民主党の泉健太代表は同日の会見で「息子に甘過ぎだ。公正、厳正に対処するのが普通だ」と批判。公明党の石井啓一幹事長も「適切とは言えない。大変遺憾」と苦言を呈した。
週刊文春は、翔太郎氏が昨年12月30日、首相公邸に10人以上の親戚と忘年会を開いた際に撮影された写真を複数掲載。内閣改造時に新閣僚の写真撮影で使った階段で翔太郎氏を最前列に、同じように整列して撮影したものや、親戚とみられる男女が、外国賓客の接遇で使うホールで記者会見のポーズをとっているようなものもあり、悪ふざけが過ぎる感がある。
◆私的利用はどこまでOKなのか
首相公邸は100年近く前に建設された旧官邸を曳家 し、2005年から、首相の住宅として使われている。施設の目的は「職務の能率的な遂行を確保し、国の事業の円滑な運営に資する」(政府答弁書)ことで、第2次政権以降の安倍晋三、菅義偉両氏を除き、歴代首相が使用。一昨年就任した岸田首相も9年ぶりに入居した。
小泉純一郎首相の政務秘書官を務めた飯島勲氏は「官邸と違い、公邸を私的に使うことは許されている。特段の公的使用はない年末だから、かまわないのでは」と話す。「私自身も知り合いから頼まれ、(公邸にある)旧閣議室で写真を撮った。安倍首相も公的、私的を問わず撮影していたはず」と続けた。
一方、橋本龍太郎首相の政務秘書官だった立憲民主党の江田憲司衆院議員は、「公邸は危機管理のための公舎。大災害や北朝鮮のミサイル発射時に、徒歩圏内で官邸に駆けつけられるように多額の税金をかけてつくっている」とし、翔太郎氏らの行為を「言語道断」と批判した。
歴代首相と異なり、岸田氏が経済産業事務次官経験者の嶋田隆氏に加えて、翔太郎氏を政務秘書官にすえた点も「2人というのは異例中の異例で、長男は仕事がないのでは」と指摘。続投の判断には「明らかに後継含みの箔 付けとして政務秘書官に登用しており、更迭すれば傷がつくのでできないのだろう。いずれ世論は忘れると高をくくっているのでは」との見方を示す。
与党議員は今回の事態をどう見ているのか。自民党の閣僚経験者は「意識が低いとしかいえない。選挙のつらさを知っていたら、こういうことはしない」と厳しい目を向ける。「結局首相の足を引っ張っている。首相も身内に甘いのか辞めさせられないが、じわじわと影響するのでは」。公明党の議員も「国会で重要案件を審議している中で、こういう報道が出ることには不快感を覚える。首相のためには、秘書官を辞めた方がいいのでは」と語った。
◆イギリスでもフィンランドでも
海外でも、官邸・公邸のパーティーは公私混同と批判されてきた。
英国では新型コロナ禍でロックダウン(都市封鎖)中だった2020年5月から、ジョ...
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