――AIと著作権について詳しい福井健策弁護士のもとには、最近、生成AIに関する相談件数が増えているのではないでしょうか。また生成AIは一般企業にどんな影響を与えるでしょうか。
福井健策弁護士(以下、福井) 増えていますね。作品を持つ権利者、AI開発者、それに一般企業からも、生成AIの著作権問題についてどう考え、どう付き合ったらいいかというご相談が増えています。いわばコンテンツホルダー、開発者、ユーザーのすべてからご相談が寄せられるという状況です。

著書に「改訂版 著作権とは何か」「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全5巻(シリーズ編者、CRIC)、「18歳の著作権入門」(ちくまプリマー新書)、「ロボット・AIと法」(共著・有斐閣)、「エンタテインメント法実務」(編著・弘文堂)ほか。多くのコンテンツ企業・クリエイターの顧問、内閣府知財本部・文化庁ほか委員、デジタルアーカイブ学会・ELN理事、緊急事態舞台芸術ネットワーク常任理事・政策部会長、日本文学振興会評議員などを務める。
例えば、今一番話題になっている米OpenAIが開発した対話型AI「ChatGPT」。米OpenAIに資金提供する米マイクロソフトは、検索エンジン「Bing」がChatGPTのデフォルトの検索エンジンになることを発表しています。ChatGPTは従来2020年までの情報しか持っていませんでしたが、Bingの検索機能を取り込むことによって情報がアップデートされることになるのでしょう。
これまでは「出典を示せない」「嘘をついても分かりにくい」のがChatGPTの大きな弱点でしたが、検索機能を取り込むことでおそらく「出典を示せる」ようになりますね。ですから、「嘘をついている」としても、それが比較的分かりやすくなるだろうと思います。
つまり、検索エンジンの長所と生成AIの長所が結びつくことになり、一般企業にとって、まさに「検索が変わる」時代が到来するのではないでしょうか。
Office製品やOSが変わり、すべての企業にメリット
少し前にマイクロソフトはOffice製品にChatGPTを取り込んでいくと発表しています。東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授は、2023年2月の「自民党AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」で、「検索がなくなり、Office製品がすべて変わる」とおっしゃっていました。
日本経済新聞5月25日付の記事によると、マイクロソフトは基本ソフト(OS)のWindowsにChatGPTの技術を導入すると発表したそうです。
こうなると、ある種の「スーパー秘書」が生まれるようなイメージを抱きます。私がパソコンに向かって指示やアウトラインを伝えると、生成AIが動き、自動的にOfficeのいずれかのソフトを立ち上げて、関連情報を集めながら企画書やメール、グラフ、プレゼン資料の下書きなどを自動で作成してくれる。このくらいのことは2024年には間違いなくできているように想像されます。
そうなれば、どんな企業にとってもそのメリットは当然訪れます。リサーチの仕方も根本的に変われば、発信の仕方もガラリと変わる可能性があります。
――作業の時間短縮、仕事の効率化が実現できれば、経営者やビジネスパーソンにはクリエイティブな活動がいっそう求められるようになりますね。
福井 各個人に問われることですね。テクノロジーが発達する過程では、これまである種の「技術的失業(technological unemployment)」は確実に起こってきました。そのときに、適応して先に進む人もいれば、そうしなかった人もいました。我々弁護士でいうと、30年ほど前にワープロやパソコンに適応できた弁護士とそうでなかった弁護士がいて、後者だと職域を広げることがなかなかできないといった時代がありました。もっとも、頑なに手書きと従来のやりかたを続け、すごい仕事をなし遂げた先輩弁護士もいました(笑)。
生成AIにどう適応するか、どう変化を遂げていくべきかは、これから各個人・団体が問われていくのだろうと思います。