スパイダーマン作品は大きく2種類に分かれる。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を観てそう思った

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  • author 中川真知子
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スパイダーマン作品は大きく2種類に分かれる。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を観てそう思った

※本記事は最新作や過去作品の詳しい内容に触れる箇所があります。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

最新作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が公開されています。

決して誇張表現ではなく、現時点でのアニメ映画の最高峰。前作を超えたビジュアルに圧倒されすぎて鑑賞後は呆然とすること間違いなし、です。

今作は、マイルス・モラレスがスパイダーマンに課せられた、愛するものの死を経験する “運命”に抗う物語です。

しかし、この運命に抗う行為はバースの調和を乱すことを意味しているので、他のスパイダーマンたちは大慌て。彼らはマイルスに「犠牲はやむなし」と説得を試みますが、マイルスは聞く耳を持たずに強行突破します。物語は“スパイダーマン(マイルス) vs スパイダーマンたち”のバトルへと発展していくんです。

スパイダーマン作品は大きく2つに分けられる

思い返すと、「ベンおじさん(や同等の立場の誰か)の死を経験しているスパイダーマン」「そうでないスパイダーマン」の作品はテイストが結構違います。

今回は2タイプのスパイダーマンの違いを掘り下げつつ、なんで同じヒーローなのに足並みが揃わないのか、また『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の戦いの落とし所なんかに触れていきたいと思います。

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©2023 CTMG. © & ™ 2023 MARVEL. All Rights Reserved.

1. 運命に翻弄されながらヒーローとして成長するスパイダーマン

ベンおじさんが死ぬスパイダーマンといえば、トビー・マグワイヤ主演の『スパイダーマン』シリーズ(2002〜2007年)と、アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012〜2014年)です。

どちらのピーター・パーカーも、自分の行動がベンおじさんの死のきっかけになっているので、自責の念にさいなまれています。ヒーローとして悪に立ち向かうのは、ベンおじさんの「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉と、他者に尽くすことでしか自分の罪を償えないという考えがベースになっています。

また、ヒーローは常に危険と背中合わせなので、周囲の人々を守るためにあえて孤独。このように、『スパイダーマン』と『アメイジング・スパイダーマン』はどことなく暗い雰囲気があり、ピーター・パーカーは運命に翻弄されながら半ば強制的にヒーローとして成長させられてるんです。

2. 失敗を繰り返しながら学んでいく子どもなスパイダーマン

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いっぽうMCUシリーズのトム・ホランド主演『スパイダーマン』は、登場時点ですでにスパイダーマンとして活躍していたため、どのように能力を手に入れたのかも描かれておらず、作中では若さゆえの万能感と好奇心でヴィランと戦っているように感じられました。

アニメ作品の『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズのマイルスは、スパイダーマンの最期に居合わせたことで次のスパイダーマンに任命されました。アーロンおじさんが目の前でキングピンに殺される悲劇に見舞われるも、実はアーロンおじさんはヴィランであり、マイルスに原因があるわけではありません。

トム・ホランド版もマイルスも、スパイダーマンである限り、愛する人の死から逃れられない境遇はあるのですが、その訪れが遅めなので前出のふたりと行動の差が出ています。

具体的には、かなり無邪気で甘え上手。致命的な失敗(ベンおじさんの死)を経験していないので、好奇心と挑戦に歯止めがきかず、しくじることも多々あります基本的に性善説を信じていて、素直でいい子。一言で表すと「子ども」なんです。

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トム・ホランド版もマイルスも、「子どもだから」とさまざまな失敗や暴走が許されています。むしろ、「子どもだから」「失敗から学べばいい」と見守られています。しかし、それは周囲の大人たちが尻拭いできるレベルの問題行動だったから。今作ではバース全体に影響が出るから大慌てなんですね。

タイプの異なるスパイダーマンを描く今作の結末は?

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『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』では、マイルスが運命を変えようとするのをきっかけに、『スパイダーマン』や『アメイジング・スパイダーマン』のピーターのような運命論者系スパイダーマンたちと、トム・ホランド版とマイルスのような愛され子ども系スパイダーマンのスタンスの違いが明確化されているのが見どころです。

この後の展開は、次回作の『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース(原題:Spider-Man: Beyond the Spider-Verse)』に持ち越されているので、落とし所はわかりません。

私は、少し影があって自己犠牲で戦うスパイダーマンが好きなので、どちらかというとマイルスには暴走してほしくありません。他のスパイダーマンたちが多くを諦めてまで守りたいものに少しは理解を示すべきだ、と、マイルスを非難する意見すら抱きました。

だからといって、運命論者系スパイダーマンの言う「自分も我慢しているのだからお前も我慢しろ」という意見には反対です……(自分が言われたら絶対に反抗する)。

個人的には、マイルスが運命を変えることに成功して、他のバースの人たちの努力を否定するのだけは避けてほしいです。でも、マイルスが失敗して、運命は変えられないんだって悲しいエンディングも見たくないかも…。なんにせよ、結果が知りたいから、早く来年になってほしい。その前に、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』をあと2回は劇場鑑賞しよーっと。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は全国の映画館で絶賛公開中。続きの『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース(原題:Spider-Man: Beyond the Spider-Verse)』は2024年3月29日米国公開予定です。