「ワグネル」プリゴジン氏、モスクワへの前進中止を発表 ベラルーシ大統領が仲介とロシア報道

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ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア国防省を非難する雇い兵組織ワグネルが24日朝にロシア南西部のロシア軍拠点に入り、首都モスクワへ向かって北上していた事態で、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は同日夜、「流血を避けるため」に前進を「中止」したと明らかにした。ロシア国営メディアによると、隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介した。プリゴジン氏はベラルーシへ移動するという。
プリゴジン氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、「ロシア人の血が流れる(可能性の)責任を理解し、我々は隊列を方向転換させ、予定通り野営地に戻る」と書いた。
24日夜には、ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌにあるロシア軍の南部軍管区司令本部を、ワグネル戦闘員と共に出るプリゴジン氏の姿が確認された。

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これに先立ち、プーチン大統領の報道官、ドミトリー・ペスコフ氏は午後9時(日本時間25日午前3時)ごろ、プリゴジン氏とワグネルへの刑事訴追は中止し、プリゴジン氏はベラルーシへ移動すると明らかにした。ロシア国防省と雇用契約を交わしたいワグネルの雇い兵は、引き続きそれは可能だとも述べた。
さらにペスコフ報道官は、ワグネルのこの日の行動がウクライナでのロシアの軍事行動に影響するなど「ありえない」と強調した。
ロシア政府は24日未明には、プリゴジン氏が「武装蜂起」を呼びかけ内戦を開始しようとしたとして、刑事捜査に着手したと明らかにしていた。
ロシア国営テレビ「ロシア24」によると、事態が一気に収束へ向かったのは、ベラルーシのルカシェンコ大統領がプリゴジン氏と電話で協議した後のことだという。
ロシア24は、ルカシェンコ大統領の広報を引用する形で、「ロシア領内でワグネルの移動を中止するというルカシェンコの提案を、プリゴジンは受け入れた」と伝えた。さらに、「ワグネル戦闘員の安全保証と共に、受け入れ可能な事態沈静化の形を見つけることは可能だ」と判明したとも報道した。

「モスクワの200キロ手前まで」=プリゴジン氏
プリゴジン氏とワグネルの部隊が24日午前にロストフ・ナ・ドヌへ入り、ロシア軍の南部軍管区司令部を占拠した事態を受け、ウラジーミル・プーチン大統領は同日午前、緊急テレビ演説を行い、ワグネルの行動は「わが国民を後ろから刺す」「裏切り」だと非難していた。
その後もワグネルの部隊は幹線道路をモスクワ方面へ北上し、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワの中間地点にあたるヴォロネジの軍事施設を制圧したとされるなど、首都まで数百キロの地点まで至った。


しかし同日午後6時半ごろ、プリゴジン氏は「テレグラム」で「(ロシア政府は)ワグネル軍事会社を解散させようとした。我々は6月23日に正義の行進を開始した。24時間のうちに、モスクワの200キロ手前まで到達した。この間、我々は自分たちの戦闘員の血を一滴たりとも無駄にしなかった。今や、流血が起こり得る時点に達した。片方でロシア人の血が流れる(可能性の)責任を理解し、我々は隊列を方向転換させ、予定通り、野営地に戻る」と書いた。
プリゴジン氏のこのメッセージは、300万回以上、閲覧されている。
この間、モスクワ周辺を含め複数の自治体で、当局は警備を強化し、住民には外出を控えるよう呼びかけていた。
「完全なカオス」=ゼレンスキー氏

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日夜、この日の事態について動画で声明を発表。「今日は絶対に沈黙してはならない日だ。そして絶対にリーダーシップが必要だ」と述べ、「世界は今日、ロシアのボスたちが何もコントロールできていないことを目の当たりにした。全く何も。完全なカオスだ。予見可能性がまったく欠けている。そして、武器だらけのロシア領内で起きている」と指摘した。
「世界は恐れるべきではない。何が自分たちを守るか、私たちは知っている。私たちの団結だけが、私たちを守る。ウクライナは確実に、欧州をあらゆるロシア軍から守ることができるし、誰が(ロシア軍を)指揮しているかは関係ない。我々は守る。欧州の東側の安全保障は、ひたすら私たちの防衛にかかっている」と強調し、「だからこそ私たちの防衛を支援する、その具体的な形のすべては、あなたたちの防衛の支援で、自由世界の全員の防衛を支援することになる」のだと述べた。
続けてゼレンスキー氏は、「ロシア語で言おう。クレムリン(ロシア大統領府)の男は明らかに、とてもおびえているし、おそらくどこかに隠れているのだろう。姿を見せずに。もはやモスクワにいないはずだと、私は確信している。彼はどこかに電話をして、何かを依頼する。自分自身がこの脅威を作り出したので、自分が何を恐れているか、彼は知っている。あらゆる悪、あらゆる損失、あらゆる憎しみ――彼自身がそれを広めている」とプーチン氏を批判した。
さらにゼレンスキー氏は、自分たちウクライナ人は「国を守り、自由を守る」とした上で、「そして、あなたがたはどうするのか」とロシア人に問いかけた。「あなたがたの兵がウクライナの国土にとどまればとどまるほど、ロシアにより大きな破壊をもたらす。この人物がクレムリンにとどまればとどまるほど、より多くの惨事が続く」とした。
これに先立ちゼレンスキー大統領は24日午後の時点で、「テレグラム」やツイッターで初めてロシアでの出来事に反応。プーチン大統領を名指しはしないものの、「悪の道を選ぶ者はだれでも自滅する」として、「ロシアの弱さは歴然としている」と書いた。 さらに、「数十万人を戦争に投げ込んだ」として、間接的にプーチン氏を非難し、ロシアの軍や民兵組織がウクライナに残る限り、「混乱と苦しみと問題が後から自分たちを襲うだけ」だとした。
ウクライナ国防省は23日深夜のツイートでは、「We are watching(注視している)」とだけ英語で書いていた。
一時は「死ぬ覚悟」とプリゴジン氏
プリゴジン氏は23日夜、ロシア軍がワグネル宿営地を攻撃し、「大人数」のワグネル兵が死亡したと、音声を「テレグラム」に投稿していた。
プリゴジン氏は証拠を提示しないまま、「我々の仲間と、(ウクライナでの戦争で)何万人ものロシア兵の命を奪った連中に、罰を与える」と主張。 さらに、ワグネルがロストフ・ナ・ドヌに入った後には、メッセージアプリ「テレグラム」に、「自分たちは全員、死ぬ覚悟だ。2万5000人が全員。そしてその後にはさらに2万5000人が」と述べる音声を投稿。自分たちの行動は「ロシア国民のため」なのだと述べた。
ワグネルの部隊は24日未明、ロストフ・ナ・ドヌに入った。プリゴジン氏は同市内のロシア軍南部軍管区司令部に入り、ワグネル部隊がロストフを封鎖し「すべての軍事施設を掌握」したと宣言。セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ総司令官が会いに来ない限り、このまま首都モスクワへ進軍すると述べていた。
こうした中でプーチン大統領は24日朝、「ロシア市民への呼びかけ」と題された緊急演説を行い、全軍に勢力を結集するよう呼びかけた。大統領は、ワグネルによる行動は国民への裏切りだとして、ロストフ・ナ・ドヌで「情勢安定化のため断固たる対応」をとると強調。「内部からの反乱はこの国を脅かす恐ろしい脅威だ。この国と国民を攻撃するものだ。そのような脅威から祖国を守るため、我々は厳しい行動をとる」と述べた。

プーチン大統領の演説にプリゴジン氏が直接反応したものと思われる音声が、その後「テレグラム」に投稿された。プリゴジン氏の声に酷似した声は、「母国への裏切りについて、大統領は非常に間違っている」、「我々は母国の愛国者だ。我々は戦ってきたし、今も戦っている」と主張。
「そして誰も、FSB(ロシア連邦保安庁)も、ほかの誰も、大統領が要求したように、我々に罪があると認めたりはしない」、「なぜなら我々は自分たちの国がこれ以上、汚職とうそと官僚主義の中で生きてほしくないからだ」と続けていた。
一方、ウクライナ侵攻におけるロシア軍の副司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍は、プリゴジン氏に対して「車列を止めて基地に戻る」よう呼びかけた。プリゴジン氏は過去にスロヴィキン将軍を称賛していた。
「我々には同じ血が流れる。我々は戦士だ」とスロヴィキン将軍はビデオで述べ、「我が国が大変な思いをしているこの時に、敵の有利になるようなまねをしてはならない」と呼びかけた。

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ロシア政府は今月10日、「志願部隊」に国防省と直接契約を結ぶよう要請するつもりだと述べた。このあいまいな表現は、ワグネルを指すと受け止められていた。これについてプリゴジン氏は11日、ワグネルは契約をボイコットすると強く反発していた。
プリゴジン氏は今年5月に、ワグネル兵の遺体が多数横たわる中を歩く自らの動画をソーシャルメディアに投稿し、ロシア国防省を激しく非難。「数万人」がバフムートで死傷したとして、「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ! この連中は志願兵として来てお前たちのために死んでいった。お前らが豪華なマホガニーのオフィスでぶくぶく太っていけるように」など、激しい表現を交えながらショイグ国防相とゲラシモフ総司令官を罵倒していた。
23日には、ウクライナでの戦争は「ショイグが元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃していた。