「どうせ1986年の原発事故の影響だろう」と言われてきた、欧州の放射性物質に汚染されたイノシシ。
セシウム137の半減期の30年を過ぎてもなかなか放射性物質が抜けません。
なんでこんなに長引いているんだろうと思って肉に含まれるセシウムの内訳を調べてみたら、なんと37年前のチェルノブイリ(チェルノ―ビリ)原発事故のみならず、60年前の核爆弾の実験からも大量の放射性物質を体内にとりこんでいたことがわかりました。
結果は独ハノーファー大、ウィーン工科大の研究班が「Environmental Science & Technology」に掲載中です。
どの国の核実験かはわからない
調査の対象は独バイエルン州で捕獲したイノシシですが、汚染源の核実験を行なった国は特定できていません。
特定の難しさを、論文共著者のGeorg Steinhauserウィーン工科大教授はこう語っています。
「爆発後、放射性物質は上空にも大量に飛び散りますからね。地面に落下するころには大気圏上層部にも均一に霧散した後というわけです。(中略)汚染元の国や実験を絞ることはほぼ不可能です。
「イノシシのパラドックス」
欧州一円に漂うセシウム。一番多いのはセシウム137ですが、もっと長く滞留するセシウム135もある程度混じっています(いずれも核実験や原発の核分裂生成物)。
セシウム137(半減期30年)の濃度は欧州一円で減少傾向にあり、鹿をはじめとした野生動物からはもうだいぶ抜けています。
なのに、ドイツ南部に生息するイノシシはなかなか減らなくて「イノシシのパラドックス」と呼ばれています。
今回の調査はその謎に迫る目的もありましたが、結論から先に言うと、イノシシは鹿トリュフ(Elaphomyces)を掘り返して食べるので、地下に沁み込んだ長寿命のセシウム135(半減期200万年)みたいな汚染物質も食べ続けてしまう、ということのようです。
野生のイノシシは鹿トリュフに目がない唯一の動物です。地中深く埋まっているものが餌なんですね。
この生態がなかったら(もっと年代の新しい)チェルノブイリがセシウムの主な汚染源となっていたことでしょう。
なるほどねえ…。
汚染の10~68%が核実験由来
調査では回収したイノシシの肉のサンプルを質量分析器にかけて、セシウムの内訳を見て発生源を特定しました。
その結果、イノシシの放射能汚染の10~68%が原発ではなく核実験による汚染と判明したというわけです。
「汚染肉を探して」と言ったら本当に汚染肉ばかり集まった
気になるのは汚染肉の割合ですが、サンプル48点のうち、ドイツの基準値を超える放射性物質が含まれていた肉は全体の88%にのぼります(日本の基準をベースにすると、サンプルすべてが基準値超えの肉だった)。
いちおう
猟師さんにはなるべく汚染度の高そうなサンプルを用意するようお願いしたので、48点中88%という割合がイノシシ全体に当てはまるとは言えません。
とSteinhauser教授は念押ししていますけどね。それにしても結構な割合です。
現場の猟師さんたちは「基準値を超えるイノシシが森のどの辺りにいて、どのシーズンを狙えば掴まるか知り尽くしていて」(教授)汚染肉の調達もお手のものだったんだそうです。
もう生活の一部で身についたプロの勘なんでしょうね。
ちなみに汚染度が高くなるのは冬場。餌がなくなって鹿トリュフで飢えをしのぐので、夏や秋より放射性物質に触れる割合は高くなります。