鼻づまりを改善する成分として一般的な市販薬に使われてきた「フェニレフリン」は、飲み薬(経口薬)では効果がないという結論が、米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会によって下された。かぜとインフルエンザのシーズンが近づき、新型コロナウイルス感染症の流行も続く中、米国の消費者の間に動揺が広がっている。
フェニレフリンは、処方箋なしで買える多くの市販薬に使われている。鼻づまりを緩和する成分が含まれているとうたう米国の製品の大半にはフェニレフリンが入っていると、米テキサス大学ヒューストン医療科学センターの耳鼻咽喉科医で助教授のジェイソン・タルマッジ氏は言う(編注:日本でもフェニレフリンを有効成分として含む鼻かぜや鼻炎用の飲み薬がいくつか市販されている)。
2007年には、鼻づまりを訴える患者において、経口のフェニレフリンとプラセボ(偽薬)との間で効果に差がなかったことを示すレビュー論文が発表された。同年、著者となった薬剤師らのグループが、この結果とともに、効果を示した元々の研究に欠陥があった証拠を提示したうえで、経口フェニレフリンの扱いを見直すようFDAに申し立てた。また2015年には、季節性アレルギー性鼻炎を持つ500人以上の成人を対象に行われた別の研究も発表され、同様の結論に達している。
さらに2015年には、2007年のFDAへの申し立てにも参加していた米フロリダ大学薬学部の教授たちが、FDAに対し、経口フェニレフリンには効果がないため市販の鼻づまり改善薬から取り除くよう求める市民請願書を提出した。2022年には、アレルギーとぜんそく、免疫を扱う米国の2つの学会も、この市民請願を支持する声明を発表している。
そしてついに2023年9月11〜12日、FDAの非処方薬諮問委員会は、89ページに及ぶ報告書に示されたデータと臨床試験の結果について検討し、経口投与されたフェニレフリンは鼻づまりを解消しないと結論づけた。このニュースに接し、「効果がないのであれば、いったいなぜこの薬は薬局で販売されているのだろう?」と考えた消費者も少なくないはずだ。
「この成分で問題とされたのは安全性ではなく、その効果でした」と、米セントルイス大学医学部のアレルギー・免疫部門長で今回、同委員会のメンバーを務めたマーク・ダイクウィッツ氏は言う。「データは有効性を示しておらず、私個人はもう何年も前からこれを推奨していません」(参考記事:「コラーゲンサプリの効果は根拠なしとの意見も、ホントはどっち?」)
フェニレフリンをめぐる顛末
フェニレフリンが厳格に評価されてこなかった理由のひとつには、この薬がはるか昔の1927年に特許を取得し、第二次世界大戦前に使われ始めたという経緯がある。血管を収縮させる働きがあるフェニレフリンは、長年にわたり、鼻づまりや痔、持続勃起症(性的な刺激や興奮とは無関係に陰茎の勃起が長時間続く状態)を改善したり、低血圧の患者の血圧を上げたりするのに使われてきた。また、目の検査で瞳孔を開く点眼薬としても使われている。
ただし、フェニレフリンが鼻づまりを改善するのに「一般的に安全かつ有効と認められる(GRASE)」成分と指定されたのは、FDAが市販のかぜ薬の審査を開始した1976年のことだった。
ダイクウィッツ氏によると、当時のGRASEとしての指定は、「現代の基準を満たさない、今とは異なる時代の研究」に基づいて行われたという。「フェニレフリンは事実上、手ぬるい評価を受けてきたと言えるでしょう」(参考記事:「避けた方がいい薬を処方される人たち、あなたや家族は大丈夫?」)