JR三鷹駅から徒歩約12分。すかいらーくホールディングス(HD)本社の目の前に、同社が展開する郊外型カフェ「むさしの森珈琲」の武蔵野西久保店(東京都武蔵野市)がある。ゆったりとくつろげるソファを配置した店内には、こだわりのコーヒーを飲みながら本を読んだり、談笑したりする女性客やシニア客が多い。

 この場所には以前、ファミレスの「ジョナサン」があった。だが、近隣にあるジョナサンの店舗とのカニバリ(共食い)が懸念されたことからコロナ禍のさなかの2021年7月に業態転換した。

 ファミレスからカフェに変わったことで来店動機も変化。食事をするだけでなく、店にいる時間を楽しむ客が増えた。ジョナサン時代からテラス席を用意していたが、「むさしの森珈琲になって目に見えて利用が増えた」と同社執行役員店舗開発本部マネージングディレクターの梅木郁男氏は話す。

 数字でも転換効果がはっきりと出た。厚切りトーストなどを提供するモーニングの客数が倍増し、武蔵野西久保店はむさしの森珈琲の全店で年商トップに躍り出た。

 すかいらーくHDはコロナ禍以降、ジョナサンと「ガスト」という主力のファミレス店舗の業態転換を続けている。むさしの森珈琲やしゃぶしゃぶ店「しゃぶ葉」に改装するケースが多い。23年には展開しているガストのうち、7店舗をむさしの森珈琲に、5店舗をしゃぶ葉に転換した。

客単価はファミレスの1.5倍

 郊外型カフェとしゃぶしゃぶ店。一見すると類似点を見いだしづらい両業態だが、同社によると、専門性が高い飲食物でハレの日にも対応でき、客単価が高い点で共通する。想定客単価は平均1500円以上。同1000円以上とするファミレスの1.5倍だ。「カジュアルダイニング」と名付けたこれらの業態群には、すし屋や焼肉店も含まれる。

 これらの業態を強化する背景には、コロナ禍で顕著になった人々の食生活の変化がある。梅木氏は「(コロナ禍では)外食の機会が減ってファミレスは売り上げが落ちたが、カジュアルダイニング業態は売り上げを維持できた」と振り返る。

 梅木氏は「ファミレスの客は子連れが多く、感染症を恐れて来店を控える人が多かったのではないか」と指摘。また「外食の機会が減ったからこそ、いいものを食べたいと専門性が高いカジュアルダイニングの店に流れる傾向が出たのではないか」とも話した。コロナ禍で食の多様化が進み、そのニーズに対応すべく専門店業態の店を増やしているというわけだ。

 23年1月には、カジュアルダイニング業態において2つの新ブランドを立ち上げた。生そば・丼専門店「八郎そば」とヤムチャ専門店「桃菜」だ。八郎そばはシニア層やファミリー層など、桃菜は30代以上の女性などがターゲットだ。

 同社は中華系ファミレスの「バーミヤン」を展開しているが、ヤムチャに特化していることで「バーミヤンとはカニバリを起こしていない」(梅木氏)。23年はガスト10店舗を桃菜に転換するなど、店舗数を増やしている。

23年1月に立ち上げたヤムチャ専門店、桃菜の南砂店(写真:すかいらーくHD提供)
23年1月に立ち上げたヤムチャ専門店、桃菜の南砂店(写真:すかいらーくHD提供)

 下のグラフは、すかいらーくHDが業態転換した店舗数を年ごとにグラフ化したものだ。コロナ禍が始まった20年は53店、21年は70店と高水準で推移した後、いったん22年で17店と減少した。だがその後、コロナ禍が収まった23年は41店と再び増加に転じ、24年は70~80店とコロナ禍を上回る数を計画する。

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