『装甲騎兵ボトムズ』高橋良輔監督が明かすガンダムとの差別化、描きたかった愛の物語、虫プロ時代の手塚治虫の超人ぶりも TAAF2024でトークショーが開催

富野由悠季監督にまつわるエピソードも披露された

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

国内外からさまざまなジャンルのアニメーション作品が集まり、上映や展示が行われる「東京アニメアワードフェスティバル2024」が3月8日から11日まで、東京・池袋を拠点に開催。アニメの発展に功績があった人を顕彰する「アニメ功労部門」を贈られた『装甲騎兵ボトムズ』シリーズの高橋良輔監督も8日、OVA作品『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』の上映後に登壇して、作品の思い出やアニメ業界に入って最初に師事した手塚治虫のことを語った。

『装甲騎兵ボトムズ』といえば、富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』と並んで1970年代末から80年代中頃にかけて一大ブームを引き起こしたロボットアニメの中心的な作品だ。スタイリッシュなモビルスーツが宇宙を舞台に戦闘を繰り広げる「ガンダム」に対して「ボトムズ」は、寸胴で顔もない「スコープドッグ」というメカに無骨なキリコという男が搭乗して戦い続ける、硬派な雰囲気が特徴的なロボットアニメだった。

高橋良輔監督(右)とモデレーターを務めたアニメ特撮研究家の氷川竜介さん。

「ガンダムを僕はずいぶんとお手本にしました。お手本と言ってもガンダムの方向で作るのではなく、ガンダムで出したものはボトムズでは逆に出さないようにしました」。トークイベントでそう話した高橋監督は、「ロボットは人間の形をしているから顔が命というところがあります。『ボトムズ』ではあえてそこは出さない用意して差別化を図りました」。結果として、アニメのオープニングでも象徴的に描かれる3つのカメラが切り替わる、独特な頭部を持ったメカが登場した。

今のiPhoneが3つのカメラを搭載して、「スコープドッグ」のようだと言われている。40年近く前にこれを先取りするようにカメラを3つ付けたのは、「僕は模型小僧であると同時に理科小僧でターレットが付いている顕微鏡がカッコよかったんです」と高橋監督。倍率の違ったレンズを切り替えるホルダがターレットで、その形状や動きに惹かれた。「ニュース映像を撮影していたカメラにもターレットが付いていてカッコよくて、それが頭に残っていました」。結果、スコープドッグのデザインがガンダムとは違ったものになったことを明かした。

『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』(c)サンライズ

「ボトムズ」は、戦場を舞台にした無骨な男たちの物語と見られていて、女性キャラクターがあまり多くは登場しない。そうしたことから高橋監督は、女性キャラクターを避けていると思われることもあるそうだが、「誤解はされていますが、題材が女性が出なくてもいいというだけだっただけで、女性が嫌いなわけがありません」と主張。「ボトムズ」でも実は「真ん中にあるのは、そんなに濃密でない若い人の恋愛感情を、ロボットものの中で入れられるか入れられないかで、それがボトムズにおける僕らのひとつのテーマだったんです」と明かした。

実際に「ボトムズ」では、主人公のキリコと、PS(パーフェクトソルジャー)と呼ばれる戦闘能力を高められた人間兵器として生み出されたフィアナとの間に通い合う関係が、シリーズを通じて描かれることになる。TAAF2024で上映された『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』は、キリコがフィアナと出会い、紆余曲折あって離ればなれになった後でまたフィアナに会おうとして危地に飛び込んでいくエピソードが描かれるが、そのラストでフィアナが同じPSのイプシロンを抑えようとしてキスをしている場面が登場し、キリコに衝撃を与える。

「『すべてを忘れるためにクメンに行く』という言葉がモノローグで出てきますが、TVシリーズのウド編の終わり方だとそれにあまり相応しくないんです」と高橋監督。「キリコとフィアナは気持ちが通じ合っていて、ウドが壊滅してそこで生き別れになっているはずなのに、どうして『すべてを忘れるために』なのか」と考えたという。

そして、「忘れたいこととはだから恋人に振られることで、今日の画面の中にあった、フィアナとイプシロンがキスをしているところを目撃して失恋した、自分と戦った男がフィアナとキスをしていてショックを受けたといった感じにつながるように作ったんです」と、TVシリーズの放送後にOVAとして制作された『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』の位置づけを説明した。

「ボトムズ」の高橋監督と「ガンダム」の富野監督は、虫プロ時代から共にアニメ業界で仕事をしてきた間柄で、ロボットアニメという分野を切り開いてきたふたりという立ち位置にもいる。高橋監督は、「富野さんとは虫プロで同期なんだけど、サンライズの半ばまで僕が年上だと思っていたらしいんです。それで年下だとわかったら、僕がずっと嘘をついていたというんですよ」と、富野監督の人となりについて話した。

そんな富野監督に、「雪山を登るときに一番前を歩くラッセルの人が一番大変なんです。それがあなたで僕はその後を歩いていくという位置関係は変わらないんですと言いました」と高橋監督。「それにも楽ばっかりしやがってと言われましたが、それぞれに役割があるんです」と言って、挑戦し続ける富野監督を讃えつつ、確実に面白い作品を作っていく自分のスタンスを説明した。

TAAF2024のアニメ功労部門を贈られた高橋良輔監督に関する展示。

虫プロ時代についても振り返った。虫プロは漫画家の手塚治虫が作ったアニメスタジオで、1964年にそこに入った高橋監督は、「手塚先生と一緒に仕事をして、手塚先生を見て育ちました」と振り返った。「あの頃のアニメーションですから、スケジュールに追われて未完成なものも出てきました。いきなり3分くらい映像が足りないと言われることもありました。そこで手塚先生に相談すると、じゃあと3分を埋めるのというのでアイデアを出してくれて、そして1分半を自分で作ってしまうんです」と、手塚治虫の超人ぶりを話した。

「そして後の半分くらいをじゃあこうやってくださいと言われるんですが、手塚先生と僕とではアニメーションにおける生産量が10倍くらい違います。手塚先生が3時間くらいでやったあとを自分がやると10何時間かかりました」と高橋監督。「その中で、手塚先生の工夫とか土壇場でのすごみを見て育ったので、今のアニメの現場でも大変で遅れたりしますが、起こったことには文句を言いません。逃げないというのは、その頃に手塚先生の背中を見て身につけたことです。ありがたいと思います」と、どっしりと構えてアニメ制作に臨む自身のポリシーに、手塚治虫の影響があることを話した。

その高橋監督が、4月からスタートする『ザ・ファブル』で久々にテレビシリーズの監督を務める。「今回の作品は、読ませていただいて原作者の先生のいろいろな考え方に共感するところが多いですね。そのような原作に沿うような映像ができるといいと考えています」と作品への抱負を語った。「一番はやはり、本を見て好きになってくれた方に嫌われたくないというものがあります。なんだ、映像ってこういうものかと思われたくないですね」と、アニメ監督として原作ファンも満足させ、アニメ好きにも喜ばれる作品に仕上げることを約束した。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
More Like This
コメント