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わずか40秒の運動で身体に起こる劇的変化

わずか40秒の運動で身体に起こる劇的変化

― 強度の工夫で短時間でも大きな運動効果 ―

発表のポイント

  • わずか40秒の高強度間欠的運動で、全身および筋肉の酸素消費量ならびに大腿部(太もも)の主要な筋肉の活動が大きく増加することを発見した。
  • 高強度運動の反復回数と、酸素消費量の増加は必ずしも比例しないことが判明した。
  • 本研究をきっかけに、トレーニング効果をもたらす『最少量』の解明が進み、日本のみならず、世界の運動実施率の向上に繋がることが期待される。

概要

早稲田大学スポーツ科学学術院川上 泰雄(かわかみ やすお)教授、国立スポーツ科学センターの山岸 卓樹(やまぎし たかき)研究員らの研究グループは、トレーニング効果を生み出す『最少量』のメカニズムについて、強度の工夫によって、短時間であっても大きな運動効果をもたらし得ることを発見しました。健康増進や疾病予防のための運動の重要性は、これまでもメディアなどでたびたび取り上げられていますが、一般的に推奨されている「週150分以上の有酸素運動」や、「週2回以上の筋力トレーニング」の実施は、日常生活においてたやすく実施できる運動とは言えません。このような背景をもとに、近年、トレーニング効果を生み出す『最少量』の研究が盛んになりつつあります。最新の知見では、「60秒以内の高強度間欠的運動」が最大酸素摂取量※1を向上させることが分かっています。しかし、そのメカニズムは十分に解明されていませんでした。

図:高強度間欠的運動実施前後の大腿部のMRIの横断画像例。各筋の色の変化が筋活動の度合いを反映している(青-緑-黄-赤の順で筋活動が高くなる)。

本研究成果は、『Medicine & Science in Sports & Exercise』(論文名:Physiological and Metabolic Responses to Low-Volume Sprint Interval Exercises: Influence of Sprint Duration and Repetitions)にて、2024年3月7日に早期公開されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

近年、トレーニング効果を生み出す『最少量』の研究が盛んに行われています。最新知見では、わずか40秒の高強度間欠的運動(20秒の全力運動を、休憩を挟んで2本実施:図1A)が、30分以上を要する中程度の強度の有酸素運動(図1B)と同等もしくはそれ以上に最大酸素摂取量※1を向上させることが明らかになっています。一方、間欠的運動の時間を減らした場合(10秒を2本、あるいは20秒を1本)は同様の効果が得られないことも確認されていますが、その理由は明らかになっていません。さらに、高強度間欠的運動に関する研究では、エネルギー代謝に主眼を置いたものが多く、筋肉に対する影響については不明でした。全身持久力や筋力を高めるトレーニングの『最少量』の解明や、筋肉への影響が明らかになれば、日本国内のみならず、世界各国の人々の運動不足の解消や、健康増進、疾病予防につながることが期待されます。

図1:高強度間欠的運動(A左図)と従来の有酸素運動(B右図)

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では、トレーニング効果を生み出す『最少量』の解明を目指し、異なる高強度間欠的運動中の全身・局所のエネルギー代謝、大腿部の筋活動について多角的に検証しました。本研究で用いた運動課題は、『10秒の全力スプリントを80秒の休憩時間を挟んで4本』と『20秒の全力スプリントを160秒の休憩を挟んで2本』の2種類です。いずれの運動課題も自転車エルゴメータを用いて実施し、総運動時間(40秒)とスプリント時間と休憩時間の比率(1:8)は運動課題間で統一しました。主に得られた結果は次の通りです。

  1. 10秒以上のスプリントを反復した場合、2本目以降は全身および筋肉の酸素消費量の増加が頭打ち になる。(図2Aおよび図2B)
  2. 筋肉の酸素消費量は、10秒と比較し20秒スプリントで増大する。(図2B)
  3. いずれの運動課題も大腿部8筋の活動を有意に増大させる。(図3)

さらに、これらの結果から、

  1. 10秒以上の全力スプリントを反復する場合、全身・筋肉の有酸素性エネルギー代謝を高めるためには2本で十分である。
  2. 総運動時間(40秒)を運動課題間で統一した場合、(スプリントの本数を減らして)スプリント1本あたりの時間を長くすることで、筋肉の酸素消費量を最大限に高められる。
  3. わずか40秒の高強度間欠的運動で、大腿部の主要な筋群の活動が高まる。

以上のことが明らかになりました。

図2:スプリントの反復に伴う全身(A 左図)および筋(B 右図)の酸素消費量の変化。スプリント2本目以降は全身、筋肉の酸素消費量がともに頭打ちになる。また、筋の酸素消費量は20秒スプリントにおいて増大する(B 右図)。*安静時とスプリント時の筋酸素飽和度の差分から算出

図3:スプリント実施前後の大腿部のMRIの横断画像例。本研究では大腿部8筋を対象とした。各筋の色の変化が筋活動の度合いを反映している(青-緑-黄-赤の順で筋活動が高くなる)。A大腿直筋、B外側広筋、C内側広筋、D中間広筋、E大内転筋、F大腿二頭筋長頭、G半腱様筋、H半膜様筋

(3)そのために新しく開発した手法

本研究で用いた手法は、呼気ガス分析法(全身の酸素消費量の分析に使用)、近赤外線分光法(大腿部の筋肉の酸素消費量の分析に使用)、MRI T2マッピング法(大腿部の筋活動の分析に使用)と呼ばれるものです。いずれの手法も世界的に用いられていますが、これらの手法を統合して一つの研究に落とし込んだ例は、世界的にも極めて限られています。運動生理学やバイオメカニクス研究で世界をリードする川上泰雄研究室においてそれが実現しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究で得られた知見は、日本をはじめ世界各国の運動実施率の改善に資するものだと言えます。WHOの身体活動に関する最新ガイドラインでは、1週間あたり150分以上の有酸素運動や週2回以上の筋力トレーニングが推奨されています。確かにWHOの推奨は理想的なものかもしれませんが、多忙な現代社会においてその推奨事項を満たすことは決して容易ではありません。

本研究では、20秒の全力スプリント2本の実施で有酸素性エネルギー代謝、そして大腿部の筋活動を十分に高められることを明らかにしました。したがって、週に1~2回程度、定期的に本運動を実施することで全身持久力の指標である最大酸素摂取量や大腿部の筋肉量・筋力の改善が期待できます。最大酸素摂取量の改善はアスリートの競技力のみならず、一般成人においても疾病予防に繋がることがこれまでの研究で明らかにされています。さらに、大腿部の筋肉量は加齢の影響を最も受けやすいと言えますが、本研究で用いた運動様式は、加齢に伴う大腿部の筋肉量の減少を食い止める一助となることが期待されます。

(5)課題・今後の展望

本研究では、高強度間欠的運動に対する一過性の生理学的な応答を検証しましたが、実際にトレーニングの効果を確かめるためには本研究で用いた運動を少なくとも数週間~数か月間実施し、その前後で効果検証をする必要があります。また、20秒の全力スプリントを2本と運動時間は極めて短いのですが、特に高強度の運動に慣れていない人にとっては、本研究で用いた運動様式の実施はハードルが高い可能性があります。本研究では、全力スプリント中の全身、筋肉の酸素消費量の増大は概ね15秒で頭打ちになることも確認されたので、運動時間を30秒(15秒×2本)とさらに短くすることも可能だと言えます。さらに、短時間であっても全力を出すとそれ相応の身体的負担が伴います。そこで、今後は少し発揮パワーを抑えた(強度を落とした)運動でも、適切な効果が得られるかを検証する必要があります。

(6)研究者のコメント

川上:「高強度間欠的運動」は世界的な注目が高まっている運動の種類です。集中して高めの強度で、短い時間だけ繰り返し行う、という方法ですが、その具体的な強度や時間、回数についての「最適解」は明らかではありませんでした。本研究の結果は、アスリートの効率的なトレーニングにつながり、一般人が日常生活に運動を取り入れるための参考になるものと考えられます。

山岸:トレーニング効果を生み出す『最少量』の探求は私の主要な研究テーマです。本研究を皮切りに今後さらに実現可能性や時間効率性に優れた運動様式を開発していきたいと思っています。本研究の内容に興味を持っていただき、これから高強度間欠的運動をトレーニングの一環として取り入れる場合は、運動時間を少し短縮したり(10~15秒)、(全力ではなく)力を少しセーブした状態でスプリントしたりと、まずは出来る範囲から取り組んでいただければ幸いです。

(7)用語解説

※1 最大酸素摂取量
1分当たりの酸素摂取量の最大値。全身持久力の指標であり、特に持久系アスリートにおいて高い値が観察される。

(8)論文情報

雑誌名:Medicine & Science in Sports & Exercise
論文名:Physiological and Metabolic Responses to Low-Volume Sprint Interval Exercises: Influence of Sprint Duration and Repetitions
執筆者名(所属機関名):山岸 卓樹*(国立スポーツ科学センター)、岩田 宗也(マツダ株式会社)、大塚 俊(愛知医科大学)、一瀬 星空(早稲田大学;論文採択時)、川上 泰雄(早稲田大学)*責任著者
掲載日時:2024年3月7日(木)
掲載URL:https://journals.lww.com/acsm-msse/abstract/9900/physiological_and_metabolic_responses_to.483.aspx
DOI:10.1249/MSS.0000000000003420

(9)研究助成

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究
研究課題名:極めて短時間で全身持久力から骨格筋の量・機能の向上をもたらす新たな運動様式の開発
研究代表者名(所属機関名):山岸 卓樹(当時:早稲田大学、現在:国立スポーツ科学センター)
課題番号:JSPS KAKENHI Grant Number: 19K19990(JSPS科研費:19K19990)

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