平日も!部活動“完全”地域移行した中学校教員の働き方は 茨城・つくば みどりの学園義務教育学校
- 2024年7月5日

「信じられませんよ、放課後の職員室に教員がそろっているなんて」
つくば市の中学校では、休日だけでなく平日も部活動を“完全”地域移行させました。
その結果、教員の働き方は劇的に変化し、子どもは専門的指導を受けて目を輝かせています。
その一方で、指導者のために払う会費は月3850円、来年度からは月5500円になるなかで、保護者は何を思うのか。全国でもめずらしい地域移行の“リアル”を取材しました。
(水戸放送局 記者 藤原陸人 戸叶直宏)
NHKプラスで配信 7/11(木) 午後7:00 まで

15クラブで平日も地域移行

つくば市にある「みどりの学園義務教育学校」です。今年度から平日と休日、すべてのクラブ活動の指導を地域に委託しています。


子ども向けのスポーツクラブを運営している地元の企業の社員や、スポーツ経験豊富な大学生のアルバイトなどが、15すべてのクラブで週4日、指導しています。
専門の指導者で目の色変わる生徒たち
競技歴が豊富な指導者ついたことで、実力が上がったのが女子バレーボールクラブ。

これまで競技経験が少ない教員が教えていましたが、今は競技歴23年のコーチが、実演を交えてレシーブのしかたなどを丁寧に指導しています。専門のコーチの生きた技術を盗もうと、生徒たちも目の色を変えて練習に打ち込んでいました。




女子バレーボールクラブ 生徒
ずっとバレーボールをやってきた方がコーチになって、教え方とかもコーチの方が断然上ですし、技術的にだいぶ成長したと感じます。

女子バレーボールクラブ コーチ
私が教える知識、経験、技術面で、基礎からもう一度作り直して、新しくなったチームが強くなっていけるようにみんなで切磋琢磨していければ。
教員の働き方のために、生徒を渡すのか

クラブの指導を委託された会社の代表、小山勇気さんです。当初、学校側から提案を受けて、部活動地域移行の準備を進めました。現場の教員たちからは、移行に慎重な声もあったと言います。
運営を委託された会社の代表 小山勇気 さん
自分たち教員の働き方のために、他者に生徒を渡すことは正しくないことなのでは…という先生が一定数いた。我々が集めた人材の経歴や、不安要素があったら、その都度、説明にあがったり、コミュニケーションを重ねたなかで信頼関係が少しずつ育まれていった。
放課後の職員室に教員、信じられない光景

クラブ活動の指導を任せた結果、教員たちの働き方が大きく変わりました。
これまで部活動の指導に追われていた放課後、多くの教員が職員室に集まり、授業の準備や、テストの採点などにあたっていました。
帰宅時間が早くなった教員や、平日の夜に社会人サークルで趣味の時間を持てるようになった教員まで出てきたといいます。校長は「想像もしたことがなかった」と信じられない様子でした。

このうち、男子ソフトテニス部を指導していた教員はこれまでソフトテニスの競技歴がなく、指導の負担が大きかったものの、今は余裕を持って授業の準備ができているといいます。
元男子ソフトテニス部 顧問
ソフトテニスの教え方を考えることに時間を割くことが多く、以前は当日の朝に授業の準備をすることもあった。今は放課後に授業を考えて次の日を迎えられるので、心に余裕を持ちながら生徒とふれあえる時間が増えた。
月5500円は高いか安いか
この学校では、今年度は企業が負担する形で月会費を3850円に抑えていますが、来年度は月5500円を家庭が支払うことになるということです。

学校によりますと「より専門的な指導を受けられるなら、対価としてしかたない」と理解する保護者たちがいる一方で、「費用が高い」として、移行したクラブに参加しなかった家庭もあるということです。

部活動に詳しい 筑波大学 木越清信 准教授
企業が経営する“習い事”タイプの地域移行では、指導者の質と、保護者が払う費用については天秤の関係になる。価格に見合わなければ保護者は遠ざかってしまい、結果として子どもたちがスポーツを続ける場所・機会が無くなってしまう。一方で、指導者の給料が安すぎれば、質の高い指導者は集まらない。指導経験の無い大学生と、何十年ものキャリアがある指導員や兼職兼業(教員が勤務外で指導する)の教員との能力差や給与の差をどう捉えるのかも検討が必要だ。
保護者も、何を求めるか議論に参加を!
木越清信 准教授
部活のように経済的な格差によらず多くの子どもたちにスポーツをやらせたい地域もあれば、少し価格を上げても質の高い指導者を求める地域もあるだろう。部活動地域移行はまだ黎明期なので、それぞれの自治体で試し、メリット・デメリットを共有し、どういう形が子どもたちにとってサステナブルなのか、みんなで考えようと、保護者と行政がコミュニケーションを取りながら納得出来る価格帯を合意形成していく姿勢が必要だ。
子どものスポーツ・文化活動に予算を
木越清信 准教授
スポーツや文化活動は権利であり、子どもの教育の一環として価値のあるものだ。国や行政がきちんと予算を立てて環境を整える必要がある。スポーツ・文化の価値が認められ、仕事にする人間が増えれば、文化として根付いていくきっかけにもなる。
目下の課題は“学校間の移動”

生徒と教員に効果が出ている一方、課題もあります。それは「学校間の移動」。地域移行の場合、通っている学校の外で活動することがあります。この学校でも、2キロほど離れている別の中学校の生徒と一緒に活動するために放課後、それぞれの学校を自転車で移動します。

生徒たちが事故が起きないよう、教員たちは見守りに道路に立っています。
部活動が担った教育はどうなるか

この学校の校長は、部活動を通じて行われてきた教育的な指導に変化がないか、検証していく必要もあると感じています。
みどりの学園義務教育学校 山田 聡 校長
部活動では、荷物をきれいに並べるとか細かいことまで先生たちが指導してきた。外部指導のコーチに人間形成というかその部分を担ってもらえるのか。兼職兼業の教員がやるクラブとの間に差が出てしまうかどうか検証していく必要がある。地域移行を完全にしたとはいえ、学校の子どもであることには変わらない。外部指導のコーチとのコミュニケーションが必要だ。
取材を終えて
教員は部活動でパンク状態、でも地方では指導できる人は見つからない、ほぼ無料だった部活動から有料になったら保護者は納得するのか?国は子どものスポーツ・文化活動に予算をどれだけ付けるのか…。部活動地域移行をめぐる筆者の認識は、こんな状態でずっと止まっていました。しかし、動き出すことで変わった生徒・教員たちの目の輝きを目の当たりにして考えが変わりました。指導員を派遣する小山さんが教員たちに理解を求めたように、対話すること、歩み寄ること、自分事として考えること。その積み重ねが、「自分だけよければいい」から「みんなが納得するには?」という姿勢や、社会につながる一歩なのではないかと思うようになりました。
まだ答えの無い、部活動地域移行では、さまざまな課題が出てくると思います。これからも、この部活動“いばら道”を、傷だらけになっても、一緒に駆け抜けていきたいと思います。
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