機械輸出を巡る冤罪(えんざい)事件に巻き込まれた機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の社長らが国と東京都に損害賠償を求めた民事訴訟の控訴審は、元取締役に対する警視庁公安部の取り調べの違法性が争点の一つだ。一審の東京地裁判決は、人を欺く「偽計」を用いて供述調書を作成したなどとして、一部を違法と認定した。どのような状況だったのか。元取締役に聞きながら、取り調べの在り方を考えた。(山田雄之)
大川原化工機を巡る冤罪事件 警視庁公安部が2020年3月、国の許可を得ずに噴霧乾燥機を中国に輸出したとする外為法違反容疑で大川原正明社長や島田さんら3人を逮捕し、東京地検が起訴したが、21年7月に取り消した。1年近く身体拘束された社長らが逮捕・起訴は違法として東京地裁に起こした国家賠償訴訟の証人尋問で、捜査担当の警察官が事件を「捏造(ねつぞう)」と証言。昨年12月の地裁判決は捜査の違法性を認め、国と都に賠償を命じた。原告、被告双方が控訴。東京高裁での審理は、12月25日に結審予定。
◆窓のない部屋で取り調べ39回
「うそをつかれたり、脅されたり。悪意に満ちてましたよ」。大川原化工機の元取締役の島田順司さん(71)は8月上旬、警視庁公安部の取り調べに対する憤りを「こちら特報部」に語った。
同社の「噴霧乾燥機」が生物兵器製造に転用可能だとして、国の許可を得ずに輸出した外為法違反を疑われた島田さん。逮捕前の2018年12月〜20年2月、任意の取り調べを39回受けた。1回3〜4時間。原宿署の灰色の窓のない部屋で、警察官と向き合った。
生物兵器製造に転用するには、機械を扱う人が細菌に感染しないよう内部を「殺菌」する性能が必要だ。大川原の機械はその性能がなく、国の輸出規制の対象にならない。島田さんは終始一貫して訴えたという。
◆「あんなの供述調書じゃない」
だが、公安部が作成した島田さんの任意調べ時の供述調書計13通に目を通しても、そのような主張は登場しない。逆に輸出規制の対象になるとして「勝手に全て非該当と判定した」「国の許可を取らずに不正輸出を繰り返した」と容疑を認めるような記述がある。
一体どういうことなのか。島田さんに聞くと、「あんなのは供述調書じゃない」と声を強め、勾留中に記録した「任意事情聴取時の状況」という手書きメモを見せてくれた。
◆話してもいない文言を付け加えられ
メモには「供述調書作成状況」という項目がある。調書が「供述した内容と大きく恣意(しい)的に変更され、誇張された」として、「警察はこのようなことをするのかと失望した」と記されている。「偽って」「認識していながら」「ずさんに」など話してもいない文言が多く付け加えられた、とも。「『無許可で輸出した』という部分は、『許可が必要とされない仕様なので、結果的に無許可で輸出した』と(補足するよう)何回要求しても入れてもらえなかった」という。
島田さんによると、取調室ではペンを貸してもらえず、調書の訂正したい箇所に印を付けられなかった。訂正を希望すると交換条件を付けられたり、一カ所訂正するたびに調書を取り上げられたりして、見落としや確認不足が起きた。
◆何を聞かれ、どう答えているかも分からなくなった
当時の精神状態をこう振り返る。「平静を装ったけど、緊張で手が震えていた。逮捕をちらつかされ、『おまえだけが認めない』とうそをつかれて迫られ、何を聞かれ、どう答えているかも分からなくなった」
島田さんが「不正輸出を繰り返した」と容疑を認める趣旨の調書の存在に気付いたのは、逮捕後に弁護人に指摘されてだった。
◆公安部の「偽計」を認定した地裁判決
国賠訴訟の東京地裁判決は、公安部の取り調べ時に「殺菌」の解釈を島田さんに説明したやりとりが調書にないことなどから、誤解させて調書に署名させる「偽計」を用いた取り調べ...
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