「考古学」という単語から思い浮かぶのは古代文明や失われた遺物、(お約束ではありますが…)『インディ・ジョーンズ』などではないでしょうか。
しかし、とある考古学的調査の舞台となったのは、考古学という言葉に似つかわしくない場所、宇宙空間にある施設でした。
考古学的アプローチでみるISS
その考古学的調査とは、SQuARE(Sampling Quadrangle Assemblages Research Experiment)というもの。地上から約408km上空を飛ぶ、国際宇宙ステーション(ISS)にある6つの調査エリア(いずれも四角形)で構成されています。
いまISSに滞在しているクルーに調べてもらうのではなく、過去に残されたデータ(この場合は過去のクルーたちが撮影した写真の数々)を調べ、過去にISSがどのように使われていたかを推測する...という手法が考古学的アプローチ、というわけです。
先日PLOS Oneに発表された研究論文で、研究チームは調査した区画のうち2カ所からの成果を明らかにしています。1つ目(トップの画像)はISSのメンテナンスエリアで、もう1つはトイレと宇宙飛行士たちのトレーニングマシン近くの多目的エリアでした。
ISSにある空間の利用実態その1
チームは、ISS内のスペースの利用実態が、当初に割り当てられていた使われ方と必ずしも一致しないことに気付きました。
60日間の調査では、メンテナンス作業用に用意したエリアはメンテナンスにはほとんど使われず、科学的な用途のために少し使われただけでした。
そこはガレージや庭の物置にある有孔ボードのようなものです。実際のところは保管エリアとなり、この場所にある大量のベルクロにがその役割を果たしていました。
と、研究の筆頭著者のJustin Walsh氏は米Gizmodoへのメールで教えてくれました。彼はチャップマン大学の考古学者で、国際宇宙ステーション考古学プロジェクトの創設者かつ共同ディレクターでもあります。
歴史写真がどこか異なる点を見せていたのは、これまで使っている人がいないときのワークステーション(訳者注:メンテナンスエリアのこと)の写真をわざわざ撮ろうとした者がいなかったからだと気付きました。
と、同氏。
「歴史写真と長期的な使用パターンとの関係に関しての重要な教訓でしたね」と補足していました。
プロジェクトの成り立ち

このプロジェクトはISSでの空間の使われ方を再検討するレビューとして、2015年に始まったものです。しかしアーカイブの画像から分かることは限られていたため、チームはISSで考古学的調査を実施することに決めたのです。
チームがISS国立研究所からの承諾を得た後は、ISS内でプロジェクトを始めるまで1年もかかりませんでした。
「ISSの歴史において、立案から実行までがもっとも速いペイロードの1つだったかもしれません」とWalsh氏は述べていました。
ISSにある空間の利用実態その2
フィールドワークが実施されたのは、2022年1月から3月にかけての期間。2つ目のサンプル区画(ISSのトイレと運動エリア近くにある、これまで重要でなかったがらんとした壁)は、クルーの1人によってアメニティ置き場として使われていました。
Walsh氏は、宇宙飛行士たちが私物を置ける場所は「ISSとしては後回しだったようで、滞在したことのある誰もが対処しなくてはいけない問題」だと指摘しています。
これまでのところ、サンプル区画のうちたった2カ所の成果しか発表されていませんが、チームは調査したエリアからのさらなる成果を来年報告するつもりなんだそう。
未来の宇宙建築のために
Walsh氏は今回の研究で得られた知見について、こう語っています。
いくつか重要なポイントがあります。1つ目は、たとえ研究員が地上にいようとも、宇宙で十分かつ生産的な考古学を行なえると示せたことです。
2つ目は、宇宙ステーション内の場所は予想外の使われ方をしているとはっきり示せたことで、それはとても人間らしい行動です。
最後は、未来の宇宙ステーションの設計者たちが住居の改良に活用できる有用な知見を寄稿したことです。私たちは、重要ではあるものの明白ではない事象を浮き彫りにしました。
また、「ISSがおそらく人類によって構築されたもっとも高価な建築プロジェクトだという点を踏まえ、そこから学んで今後は改善していく方法を考えることが大事です」と、述べていました。
ISSは2030年に退役予定で、その時点で軌道から離脱して太平洋へと制御された方法で落下するでしょう。そのときまでに民間の代替施設が間に合わないかもしれないと懸念されています。現在のISS以外にも、宇宙での国際協力には月での長期的な有人拠点を確立するという、計画中の月の宇宙ステーション「ゲートウェイ」というさほど小さくはない問題があります。
ISSはもうすぐ過去のものになりますが、今後の宇宙建築のために学べることはまだたくさんありそうです。
Source: PLOS One, ISS Archaeology,