日本製鉄は去年12月、アメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールを買収することで両社で合意しました。
しかし、鉄鋼業界の労働組合が反対しているほか、民主党のバイデン大統領とハリス副大統領が買収に否定的な考えを示し、共和党のトランプ前大統領も買収を認めない考えを繰り返し強調しています。
こうした中、アメリカの「ワシントン・ポスト」など複数のメディアは4日、関係者の話として、バイデン大統領が買収を正式に阻止することを発表する準備を進めていると報じました。
ワシントン・ポストは、この買収がアメリカの安全保障に及ぼす影響を審査している政府の外国投資委員会は、まだ大統領に勧告書を提出していないとしています。
その上で「11月の選挙を前に大きな政治的な論争となった、同盟国の企業による買収提案を拒否するという驚くべき決断になる」と伝えています。
日本製鉄 USスチールの買収計画 “適正審査と強く信じている”
アメリカの複数のメディアは、バイデン大統領が、日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールの買収計画について正式に阻止することを発表する準備を進めていると報じました。


買収をめぐっては、USスチールの経営トップが、買収が成立しなかった場合、老朽化が進むペンシルベニア州にある製鉄所を閉鎖し、本社も移転させる可能性に言及したばかりで、バイデン大統領の判断が注目されます。
日本製鉄 “適正に審査されるものと強く信じている”
バイデン大統領が、日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールの買収計画について正式に阻止することを発表する準備を進めていると複数のメディアが報じたことを受けて、日本製鉄は「外国投資委員会からの審査結果は受領していない。関係当局による審査開始以降、この買収が国家安全保障上の懸念がないことをアメリカ政府に対して明確に伝えてきた」とコメントしています。
その上で、「日本製鉄によるUSスチールへの投資は、日本製鉄だけが実行可能であり、USスチールとアメリカの鉄鋼業界全体は、より強固な基盤を築くことができる。アメリカ政府により、法にのっとり、適正に審査されるものと強く信じている」としています。
報道を受け NY市場 USスチールの株価が一時大幅値下がり
バイデン大統領が日本製鉄によるUSスチールの買収計画を正式に阻止することを発表する準備を進めていると報じられたことを受けて、4日のニューヨーク株式市場で、USスチールの株価は一時、24%を超える大幅な値下がりとなりました。
終値は、前日からおよそ17%安い水準でした。
日米経済協議会 “政治的利用に多大な懸念”
日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールの買収計画をめぐり、バイデン大統領が正式に阻止することを発表する準備を進めているとアメリカの複数のメディアが報じたことについて、「日米財界人会議」を主催し、およそ70の国内企業や団体でつくる日米経済協議会は、「外国投資委員会の審査プロセスは、公正なルール・プロセスに基づき客観的に行われるべきものであり、これを政治的に利用しようとする試みには多大な懸念がある」とするコメントを発表しました。
そのうえで「日米両国は、欠くことのできない同盟国であり、日米両国の経済の深い結び付きは、何百万人もの雇用を支え、地域社会を豊かにし、集団的な国家安全保障を強化している。アメリカ政府に対し、外国投資委員会の審査を厳正かつ公平に進めるよう求める」としています。
USスチール買収めぐる経緯
日本製鉄が、アメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画を発表したのは、去年12月でした。
しかし、この買収に対しては、アメリカの鉄鋼業界の労働組合、USW=全米鉄鋼労働組合が直ちに非難する声明を出し、与野党の一部の議員からも強い反発の声が上がるなど、労働者の雇用への影響や安全保障の観点などを理由としてアメリカ国内で反発が広がっています。
さらにことし11月に行われるアメリカ大統領選挙をめぐる思惑も影響を与えています。
USスチールが本社を置くペンシルベニア州は、民主党と共和党の支持がきっ抗する激戦州で、両陣営とも労働組合や労働者の支持獲得が重要となっています。
ことし1月には、トランプ前大統領が「私なら即座に阻止する」などと発言し、大統領に再び就任した場合には買収を認めない考えを明らかにしました。
3月にはバイデン大統領が外国企業による買収に否定的な考えを示したほか、今月2日には、ハリス副大統領も「アメリカ国内で所有され続けるべきだ」と述べて買収に否定的な考えを示しました。
こうした中、日本製鉄は買収への懸念を払拭(ふっしょく)しようとしてきました。
ことし3月には、USスチールとの連名で文書を公表し、買収による雇用の削減や、施設の閉鎖、生産の海外移転は行わないことや、買収完了後にテキサス州にある日本製鉄のアメリカ本社もピッツバーグに移転させる計画を明らかにしました。
そのうえで、日本製鉄は雇用の創出などにつながる日本円でおよそ2000億円の投資を行うことに加え、先月には、USスチールの2つの製鉄所に、少なくとも13億ドル、日本円で1800億円以上の追加投資を行う計画も明らかにしていました。
さらに、4日は、買収が完了したあとのUSスチールの経営体制の方針を公表し、取締役の過半数をアメリカ国籍とすることや、経営陣の中枢メンバーをアメリカ国籍にするとしています。
両社としては、アメリカ国内で反発が広がる中、地元に配慮する姿勢を示し、買収に向けた手続きを円滑に進めるねらいがあるとみられます。
一方で、USスチールの経営トップが買収が成立しなかった場合、老朽化が進むペンシルベニア州にある製鉄所を閉鎖し、本社も移転させる可能性に言及しています。
日本製鉄はことし12月までの買収の完了を目指していますが、ここに来て、バイデン大統領がUSスチールの買収計画を正式に阻止することを発表する準備を進めているとアメリカの複数のメディアが報じるなど、先行きは不透明な状況となっています。
林官房長官 “経済安全保障分野での協力など不可欠”
林官房長官は5日午前の記者会見で「個別の企業の経営に関する事案でコメントは差し控えたいが、日米相互の投資拡大を含めた経済関係の一層の強化、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長の実現、経済安全保障分野での協力などは、互いにとって不可欠だと認識している」と述べました。