自民党新総裁に石破氏:識者はこうみる

自民党新総裁に石破氏:識者はこうみる
 9月27日午後、自民党総裁選は投開票が行われ、決選投票の結果、石破茂元幹事長が高市早苗経済安保相を破り、第28代総裁に選出された。写真右は総裁に選出後、壇上に立つ石破氏。都内で同日代表撮影(2024年 ロイター)
[27日 ロイター] - 自民党総裁選は27日午後に投開票が行われ、決選投票の結果、石破茂元幹事長が高市早苗経済安保相を破り、第28代総裁に選出された。石破氏は10月1日に召集される予定の臨時国会での首相指名選挙を経て、第102代の首相に就任する見通し。
市場関係者に見方を聞いた。
◎野田立憲代表登板受け安定性に評価
<法政大学大学院教授(現代政治分析) 白鳥浩氏>
勝因は立憲民主党の代表に野田佳彦元首相が選ばれたことだろう。元首相で演説力のある政策通。小泉進次郎氏では経験不足だし、高市早苗氏は発言で中国などと外交問題を引き起こしかねないリスクがあった。その中で政策的に一定の安定感のある石破さんが選ばれたということだろう。
また石破氏は岸田政権では重要な職に就けず事実上干されていたため、総裁就任は自民党の求める刷新感にもつながる効果がある。
石破氏としては5度目で最後の総裁選出馬で、背水の陣を敷いた格好。これを意気に感じる党員・議員から票を集めた面もあると思う。
一方、課題・懸念としては、裏金問題への対応がある。国民からは自民党の裏金問題に石破さんなら毅然と対応してくれるとの期待がある。一方、毅然と対応し過ぎれば約100人の元安倍派議員などを敵に回し政局要因となるリスクがある。
また経済政策運営も、明確な財政再建重視姿勢が心配。物価高で国民生活が大変なときに増税を打ち出すと、一気に反発を受ける可能性もある。
近く想定される衆院選は、兵庫県知事問題で自滅気味な日本維新の会が票を減らし、その分を立憲が奪い、自民は多少減る程度にとどまるのではとみている。
◎衆院選で自民大敗リスク低下、短期的には日銀追加利上げ期待復活
<SMBC日興証券 金融財政アナリスト 末澤豪謙氏>
石破氏は最終局面になって政策において岸田路線を継承することを明確にし、菅氏のグループや旧岸田派、旧二階派の議員など、小泉氏と石破氏であれば小泉氏を支持した人の票が、決選投票では石破氏に相当流れてきた。これは、選挙が近いことが決め手となったと思う。
選挙が近い中での議員心理としては、党員・党友人気の高い高市氏の掲げる保守的な政策に対する警戒感が強かったとみられる。一方で、石破氏は経験豊富で、主張も基本的には尖っておらず経済政策では立憲民主党に近い部分もあるなど、選挙を有利に進めるため石破氏に国会議員票が多く集まったとみている。
衆院解散・総選挙については、石破氏は予算委員会を開催するとみられ、10月にすぐ行う可能性は低い。ただ、来年の政治日程を考えると難しい部分もあるので、11月か12月に行われる可能性が極めて高いと思う。
石破氏が新総裁に選ばれたことで、総選挙で自民党が大負けするリスクは低下したと思う。ただ、自民党内ではイデオロギーの面で保守派と中道派が対立している現状があり、今後は新総裁の下で党内融和をどう図っていくかという課題は残る。
金融市場については、高市氏勝利なら日銀の追加利上げが困難になるとの観測のもと、ここまで円安・株高・中長期の金利低下が進んできた。一方、石破氏の場合は公約で「金融政策は日銀の独立性を尊重し、経済を冷やさない速度での正常化を期待」するとしており、マーケットでは追加利上げ観測が再度浮上し、短期的にはここまでのトレードの巻き戻しが起きやすい。
◎非効率な資源配分の是正はマクロ経済にプラス、具体策に期待
<Indeed Hiring Lab エコノミスト 青木雄介>
石破氏が掲げるのは非正規雇用者対策や地方での経済政策などで、成長余地のあるところを底上げして伸ばしていける可能性はある。非効率な資源配分(ミスアロケーション)の是正という政策は、効率的な社会構成に繋がり、経済的にも望ましい。
一方、何を原資とし、どのように成長させていくかについてはまだ不透明感が強い。今後出てくる、政策の具体的な内容を見極めたいと思う。
◎アベノミクスの「功罪」総括に期待
<野村総研エグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員) 木内登英氏>
正直ほっとした。安定した政策運営が期待できるだろう。金融政策についても、日銀の自主性を尊重して緩和からの正常化を支持する立場を示している。高市氏は日銀の正常化に否定的な姿勢を明言しており、これ以上円安が進むと物価上昇を通じて消費の悪化につながる懸念があった。
株式市場では、石破氏の打ち出した金融所得課税の強化や法人税の引き上げについて懸念も出ている。しかし、これらは払える層には応能負担を求めるという、リベラルな経済運営姿勢を示していると思う。
金融政策・財政運営ともに功罪の両面があったアベノミクスについて総括が必要と明言している点でも、石破氏を評価している。
課題は成長戦略で、総裁選の期間を通じて地方創生に軸足を置いた成長戦略について言及が多かったが、一次産品中心の成長戦略がどこまで可能なのかなど、具体策を聞きたい。これまであまり触れてこなかった、労働市場改革や外国人労働力などについての課題、岸田政権の掲げた資産運用立国に向けた政策運営などに期待したい。
◎来週は円高・株安、その後は金融政策姿勢次第
<三井住友トラスト・アセットマネジメント チーフストラテジスト 上野裕之氏>
ここ2日間の株高は高市早苗氏の勝利を織り込んでいた部分が大きく、「高市トレード」の巻き戻しが起きるのは自然な流れだ。週明けはいったん円高・株安でのスタートとなり、日経平均は3万7000─3万8000円台と約1週間ほど前の水準に戻るとみている。ただ、来週は9月の米雇用統計を控えているため、週末にかけては再び米国景気の動向を見極めながらの展開になるだろう。
来週の東京株式市場はいったん慎重ムードに支配されることが見込まれるが、その後は石破茂氏次第とみている。石破氏は今回の候補者の中でもタカ派発言が目立ったが、これから金融政策を巡りどのようなスタンスを持つかは大きなポイントだ。また、組閣・党役員人事はどうするのか。今回僅差となった高市氏を起用するとなると、一定の安心感を得られるのではないか。いずれにせよ、市場は石破氏が独自色を出し過ぎず、足元の物価、市場、景気などのデータを見極めながら、政策を捉えてくれることを望んでいるだろう。
◎金融緩和修正を容認、経済安保で存在感
<BNPパリバ証券 チーフエコノミスト 河野龍太郎氏>
自民党総裁選で非主流派の石破茂氏が選ばれたことは、政治とカネの問題で自民党内も割れていて、派閥の力が衰退し、党員の力が強くなった結果だろう。
岸田文雄首相の時代から、大規模な金融緩和からの修正が徐々に起こっていたが、財政に関して方向としては今までの路線と変わらないだろう。石破氏は財政健全化を意識しているが、急激に引き締めになることはなく、金融緩和に関しても日銀が修正していくことを認めるだろう。
今後、日米のリーダーが変わることになる。地政学の時代になり、TSMC(の製造拠点設置)も含めて、経済安全保障の分野で日本が注目を集める中、この分野で石破氏の存在感も出てくるのではないか。
◎受益と負担を熟考との印象、課題は成長戦略
<みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席エコノミスト 酒井才介氏>
石破氏は、高市氏と正反対の政策を主張していた。高市氏が積極財政・金融緩和路線を取る一方、石破氏は金融所得課税や法人税見直しを議論し、社会保障と財政の持続可能性を高めるべきとの立場だ。総裁選の候補者の中では比較的誠実かつ現実的に、受益と負担を真面目に考えている印象だった。
株式市場にとってはややネガティブで「石破ショック」と言われるリスクもあるかもしれないが、一方で高市氏が選ばれていたら放漫財政で日本売りを加速させる「日本版トラス(英元首相)」になるという見方も出ていた。
石破政策の課題は、成長戦略だ。地方創生が起爆剤になるというのが持論だが、原発に関しては比較的慎重な立場を取る。現行の国内投資底上げ路線の政策では、人手不足と共に電力不足も問題になる中で、その方向性と矛盾するような印象を受ける。高市氏の処遇を含め、成長戦略をどうするのかが組閣人事のポイントとなるだろう。
◎防衛族のドン、日米関係は盤石
<政治評論家(自民元幹部職員) 田村重信氏>
石破氏は長年、防衛族のドンとして自民党のほとんどの防衛政策にかかわってきた。日本の安全保障・外交を熟知しており日米同盟の重要性は誰よりも理解している。日米関係は盤石だ。
日米関係の片務性解消をうたっているのは、日本が自主憲法を制定し自前の軍を保有する際には、いずれ外国の駐留軍は縮小していくという意味。
今回石破氏が自民党総裁に選ばれた理由として立憲民主党が野田佳彦元首相を代表に選んだことも大きい。立憲からすればより保守的な高市氏の方が批判しやすい。また高市氏は靖国神社参拝を明言しており、これも対中国外交などで問題を起こしやすい。
中国にはいろいろな問題があるが、日本が経済的に中国・アジアとの関係を重視せざるを得ないのは当然だ。高市氏では反中姿勢が鮮明なため、日本産水産物輸入再開などせっかく改善の兆しが見える日中関係に悪影響を与えた可能性もある。
◎日銀は動きやすい体制に、アベノミクス影響さらに低下
<明治安田総合研究所 経済調査部 エコノミスト 前田和孝氏>
日銀としては自由に動きやすい体制になる。金融政策は石破氏がそこまで傾倒している分野ではないので、日銀の判断に任せるというスタンスだろう。
次の利上げは経済情勢を踏まえた上で12月と予想しているが、総裁選の結果は影響しない。日銀とのアコードについても、見直すインセンティブがそこまであるとは思えない。
アベノミクス路線の継承者は高市氏で石破氏はどちらかというと反対の立場とみられ、その意味では、今回の結果を受けて自民党議員の間でのアベノミクスの影響力はほとんどなくなると言えるだろう。
財政運営については、金融所得課税の話を持ち出したこともあり規律を保つ方向。ただ、総裁選の途中でトーンダウンしたことからしても、今以上に引き締めるというのは世論的にも難しいとみている。
◎金融政策正常化にかじ切りやすい
<農林中金総合研究所 理事研究員 南武志氏>
自民党総裁選の結果に驚きはない。立憲民主党が野田佳彦元首相を担いできたことに対する自民党の答えが石破茂氏だったのではないか。石破氏にフレッシュな印象はないが、政治とカネの問題で有権者に自民党は変わったという印象を植え付けるのに適した人選なのではないか。
経済政策では、キーワードは「アベノミクスからの決別」だ。これまでの大規模緩和でジャブジャブの状態になった金融政策の正常化に向けてかじを切りやすくなった。財政政策では早速補正予算を編成してから総選挙に打って出るのではないか。
外交は引き続き日米同盟中心に中国と対峙していくと思われる。
◎市場は総裁選前の環境へ回帰、米利下げなど鍵に
<バークレイズ証券 為替債券調査部長 門田真一郎氏>
第1回投票で高市氏が最も票を得たことで、外為市場ではいったん円安が急速に進行したが、決選投票で石破氏が勝利したことで、そうした動きは巻き戻され、ドルも143円台と今週初の水準へ戻った。
石破氏が首相となれば、日銀の金融政策を含めて、現在の岸田政権から大きく方向性は変わらないと見られる。市場の焦点は再び、今後の日銀の利上げ時期、米国の大統領選、利下げの行方など、総裁選以前のテーマに集まるだろう。
◎日銀の判断尊重、利上げに大きなハードルとならず
<SBI新生銀行 シニアエコノミスト 森翔太郎氏>
石破自民新総裁の「経済を冷やさない速度での正常化を期待」との所見やインタビュー記事からは、金融政策の正常化、それによる金利のある世界への回帰に対して肯定的とみられる。基本的には、日銀の経済・物価の判断が尊重され、日銀の判断で利上げを進めていくことができるのではないか。
今回の総裁選の結果は、日銀が金融緩和領域で利上げを進めていくにあたって、大きなハードルとはならないだろう。
◎株式市場いったん悲観ムード、衆院選に向け政策評価も
<大和証券 チーフエコノミスト 末広徹氏>
石破茂氏が新総裁に選出された。株式市場では金融緩和を主張する高市早苗氏に期待が高まっていたことから、いったん悲観的なムードが漂うだろう。
しかし、総裁選後はすぐに衆院の解散・総選挙に注目がシフトする。野党支持層や無党派層の支持も期待できる石破氏が世論調査で高めの支持率を得ることができれば、結果的に石破氏の政策を評価する声も増えてくるだろう。選挙のことを考えると、株安を引き起こすような金融引き締め的な発言も予想されない。
◎「高市トレード」いったん巻き戻し、支持率向上なら再び株高も
<しんきんアセットマネジメント投信 シニアファンド・マネージャー 藤原直樹氏>
石破茂元幹事長の当選で「高市トレード」はいったん巻き戻しが先行しそうだ。投開票が進んでいた取引時間中には、高市早苗経済安保相の勝利を織り込むような株高・円安・金利安となっていた。
新総裁は、政策面でさほど独自性のある人ではなく、現政権から大きな路線変更はないだろう。ただ、市場では石破氏に対し、緊縮財政を志向するのではないかとの警戒感が根強い。ようやくデフレを脱しつつある中で、マクロ経済に悪影響が出ないよう期待したい。
株価は高水準に上昇してきただけに、現実的にはこの辺りでいったんピークを付けてもおかしくない。ただ、早期解散への思惑が強まれば「選挙は買い」でもあり、株価は一段高を試し得る。
現政権の支持率が低かっただけに、支持率向上のハードルは下がっている。政局安定なら海外勢の買いを誘いやすいし、政権発足当初は耳障りのいい政策を打ち出すとの思惑もある。勢いづけば年初来高値を試す場面もあるかもしれない。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab