韓国ユン大統領“弾劾・捜査に立ち向かう”「非常戒厳」正当化

韓国のユン・ソンニョル大統領は12日発表した国民向けの談話の中で、「非常戒厳」の宣言を決断したことを正当化し「弾劾であれ捜査であれ、立ち向かう」と強調しました。
一方で与党の代表は、党として弾劾に賛成する必要があるという考えを示し、近く再び提出される弾劾を求める議案をめぐって与党の動向が焦点となっています。

韓国のユン・ソンニョル大統領は12日、午前9時半過ぎから国民向けの談話を発表しました。

この中でユン大統領は、国会などでのこれまでの野党の対応を批判し、「野党が国政をまひさせてきた。このような人々こそ、反国家勢力ではないか」と述べました。

そして野党側の動きなどを理由に今回「非常戒厳」の宣言を決断したと説明し「大統領の『非常戒厳』を宣言する権利の行使は司法審査の対象にならない統治行為だ」と正当化しました。

その上で「弾劾であれ、捜査であれ、私はこれに対して堂々と立ち向かう」と強調しました。

与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は「大統領の職務停止のために弾劾に賛成すべきだという話を国民に申し上げた」と述べ、党として弾劾に賛成する必要があるという考えを示しました。

ただ、党として弾劾に反対してきたこれまでの方針が実際に転換されるのかどうかは、明らかになっていません。

野党側は、弾劾を求める議案の採決を14日にも行いたい考えで、近く議案を国会に提出する予定で、弾劾を求める議案をめぐって与党の動向が焦点となっています。

【動画 15秒】「弾劾・捜査 堂々と立ち向かう」

談話の詳しい内容

韓国のユン・ソンニョル大統領は12日発表した国民向けの談話で、「非常戒厳」は正当な措置で内乱にあたらないと主張し、およそ30分にわたって戒厳を宣言した動機を述べ続けました。

最大野党「共に民主党」がユン政権の発足以降、公職者への弾劾を求める議案を乱発していたとした上で「国政をまひさせ、巨大野党が支配する国会が自由民主主義の基盤ではなく、憲政秩序を破壊する怪物になった。これが国家危機の状況でなければ何がそういえるのか」と述べ、最大野党について「国を滅ぼそうとする反国家勢力ではないか」と主張しました。

さらに最大野党の代表が複数の不正疑惑での刑事裁判で被告となっていることに関連し「巨大野党が偽りの扇動で弾劾を急ぐ理由はただ一つだ。党代表の有罪判決が迫り、大統領の弾劾を通じてこれを回避して早期に大統領選挙を行うことだ。これこそが国憲を乱す行為ではないか」と述べました。

その上で「大統領の非常戒厳を宣言する権利の行使は、赦免を行う権利や外交を行う権利と同様に司法審査の対象にならない統治行為だ」と正当化し、戒厳は、大統領の法的な権限に基づく高度な政治的判断であって、内乱にはあたらないと強調しました。そして「私は今回の非常戒厳を準備しながら国防相とだけ議論をし、大統領府と閣僚の一部には宣言直前の閣議で知らせた」と明らかにしました。

談話では中央選挙管理委員会の庁舎や、国会に軍を投入した動機についても言及しています。

このうち中央選挙管理委員会への軍の投入については、ユン大統領自身が当時のキム・ヨンヒョン国防相に指示したと明らかにし「選挙管理委員会をはじめとする憲法機関や政府機関に、北によるハッキング攻撃があったことを情報機関が発見し、情報流出と電算システムの安全性を点検しようとしたが、選挙管理委員会は憲法機関であることを掲げ、かたくなに拒否した」と述べたほか「最近、巨大野党が自分たちの不正を捜査し監査するソウル中央地検トップと検事たち、憲法機関である監査院長を弾劾すると言ったとき、これ以上、ただ見守ることはできないと判断した」と述べました。

国会に軍を派遣した目的については「戒厳宣言の放送を見た国会関係者や市民が大勢集まることに備えて秩序を維持するためであり、国会の解散や機能のまひをさせようとするものではない」と釈明しました。

大統領は今回の談話のなかで「非常戒厳」の宣言を繰り返し正当化していて「弾劾であれ、捜査であれ、私はこれに対して堂々と立ち向かう」と強調しています。

専門家「大統領なりの法律解釈が披露されている」

静岡県立大学 奥薗秀樹教授(画像は去年)

韓国の政治に詳しい静岡県立大学の奥薗秀樹教授は韓国のユン・ソンニョル大統領が12日発表した国民向けの談話について「談話の中では今回の非常戒厳について内乱罪ではなく、大統領の『統治行為』であるという大統領なりの法律解釈が披露されている」と指摘しました。

そしてユン大統領が弾劾や捜査に立ち向かうと述べたことについて「大統領としても勝算があるとは正直思っていないだろう。非常戒厳の宣言にいたった背景について、自分は内乱を起こそうとしたのではないと、直接自分のことばで国民や与党、野党に語ることが自分と夫人の名誉を守ることにつながり、離れてしまった保守層の一部をもう一回引きとめようという思いだったのではないか」との見方を示しました。

一方で「非常戒厳」をめぐって警察や検察などの複数の機関が捜査に乗り出している状況について「検察や警察などの組織が、次の政権を念頭において一生懸命、ユン大統領を捜査する姿勢を国民に見せたいのだろう」と指摘しました。

また今後の捜査の見通しについては「国民が直接選んでいる大統領に対して自由に捜査することができるかというと、なかなかハードルは高い。大統領を捜査するにあたってどこがどういう捜査をするのかをめぐる葛藤がある状況だ」と述べて、捜査が今後、どのように進められるかは、まだ具体的に見通せない状況だとしています。

記者解説 ユン大統領の談話の真意は

Q ユン大統領は、なぜこのタイミングで談話を発表したのでしょうか?

A ユン大統領への圧力が与党内からも強まっていることが、このタイミングでの談話の発表につながったと言えると思います。
ユン大統領は、先週7日にみずからの弾劾を求める議案が採決されるのを前に、談話を発表して「非常戒厳」について謝罪しましたが、短い内容の談話にとどまりました。
それ以来の発言となった12日の談話ではおよそ30分にもわたって「非常戒厳」を出した経緯などについて、力強い口調で国民に訴えました。国民からの批判が強まり、捜査機関の動きも進む中で、みずからの正当性を強調したものとみられます。

Q 弾劾を求める議案や捜査の行方はどうなりそうですか?

A 弾劾を求める議案は、近く提出される見通しで、野党側はあさっての採決を目指しています。先週の採決では、与党のほとんどの議員が議場を退席して投票に参加せず、弾劾の議案は廃案となりました。
ただ、11日までに、次回の弾劾を求める議案の採決で与党内から5人が賛成すると報じられました。12日には与党のハン・ドンフン代表が、「党として弾劾は賛成すべきだ」と述べていて、与党の方針がどうなるのかがカギとなります。
一方、捜査機関による捜査も進められていて、11日の警察などによる大統領府への捜索令状には、容疑者としてユン大統領の名前が明記されました。
検察は声明で「地位の高い、低いを問わず厳正に捜査する」と強調していて、ユン大統領をめぐる捜査の行方が引き続き注目されます。

検察と警察が別々に捜査

「非常戒厳」をめぐる捜査では、検察がユン大統領に進言したとされる、前国防相のキム・ヨンヒョン(金龍顕)容疑者を逮捕し当時の経緯などを詳しく調べています。

一方で警察は、警察庁長官などを拘束したほか、政府高官などを捜査するための機関や国防省とともに合同捜査本部を設置していて、検察と警察などが別々に捜査を進める形になっています。