【解説】 トランプ氏とプーチン氏の電話、ウクライナを犠牲に緊張を和らげる

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フランク・ガードナー安全保障担当編集委員
ウクライナでの戦争の終結に向けた取り組みが、かなりのスピードで進んでいる。
ウクライナにとって残念なのは、運転席に座っているのが同国ではないことだ。
世界の2大核武装国であるロシアとアメリカの首脳が90分間、建設的で友好的だったとみられる電話協議をしたというニュースは、表向きでは、平和な世界に向けた歓迎すべき一歩だ。
ドナルド・トランプ大統領とウラジーミル・プーチン大統領は、明らかに良好な協力関係にある。アメリカのジョー・バイデン前大統領との関係とは非常に対照的だ。
当面、熱は下がった。しかし、この前向きな動きは、ウクライナを犠牲にするものかもしれない。
アメリカのピート・ヘグセス国防長官の12日の発言は、ウクライナの多くの人に、氷のように冷たい水を浴びせるものとなるだろう。ロシアのさらなる侵攻という脅威のない、安全な未来へのウクライナ国民の希望を打ち砕くものだ。
ヘグセス氏の発言は、北大西洋条約機構(NATO)のウクライナの最も親しい支援国の一部にとっても打撃となった。それらの国は、ロシアの失速しつつある経済を疲弊させようと、同国に圧力をかけ続けようとしてきた。
ヘグセス氏は、ウクライナの和平に関するアメリカの立場を、明確な言葉で表現した。その言葉は間違いなく、ロシアに歓迎されるだろう。
将来のいかなる安全保障体制においても、ウクライナのために米軍を派遣することはない。
ウクライナがNATOに加盟する可能性はない。
2014年以前の国境に戻る現実的な可能性はない(その時期、ロシアはクリミア半島を占領・併合し、ドンバス地方で反政府勢力を支援していた)。
これらはすべて、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権がはっきりと打ち出してきた目標を打ち消すものであり、戦場の悲惨な状況の上に成り立つものだ。いま戦場では、兵力で勝るロシア軍が、ウクライナ領内でじわじわ前進を続けている。
ヘグセス氏の言葉は、ウクライナが「必要とする限り」NATOは支援を続けるという、西側諸国がたびたび繰り返し、今ではかなり空虚に聞こえる主張と、まったく対照をなすものだ。
トランプ氏は、たとえウクライナに苦い薬を飲ませることになっても、この戦争を早期に終わらせたいと考えている。
この戦争をヨーロッパの問題とみており、ヨーロッパが解決すべきだと考えている。
トランプ氏には他に優先すべきことがある。米南部国境の安全確保、貿易、関税、中国、太平洋地域などだ。
アメリカによる和平案の詳細は、今週末のミュンヘン安全保障会議で明らかになるだろう。この会議にはアメリカのJ・D・ヴァンス副大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が出席する予定だ。
最終的には、ヨーロッパとそれ以外の国の兵士数千人が関わる平和維持活動や、ウクライナがアメリカに支援と引き換えにリチウムなど希土類鉱物へのアクセスを提供する協定について、合意が形成される可能性は十分ある。
しかし差し当たり、2月12日という日付は、望ましくない新たな現実が定着した厳しい日として、ウクライナのカレンダーに刻まれることになるだろう。