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高校無償化、私立向け拡大「反対」70% 経済学者調査

学費上げや公立衰退を懸念

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日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者に政策の評価を問う「エコノミクスパネル」の第3回調査として、高校無償化への賛否を尋ねた。自民党と公明党、日本維新の会がめざす私立高校向け支援額の引き上げには70%が反対した。

Q.高校授業料に関わる家計支援の上限額は多くの私立高をカバーできるよう引き上げるのが望ましい。

現行の就学支援金は、子どもが私立高校に通う年収590万円未満の世帯には39.6万円を上限に支給している。自民・公明両党と日本維新の会は支援に関わる所得の制限をなくした上で、上限額を引き上げる協議を続けている。

経済学者47人に「上限額は多くの私立高をカバーできるよう引き上げるのが望ましい」かを尋ねたところ、「そう思わない」(57%)、「全くそう思わない」(13%)の合計で反対が70%に達した。

多くの経済学者は、私立高校向けの支援額を引き上げると、私立が学費を上げると指摘する。東京大学の渡辺安虎教授(実証ミクロ経済学)は「私立校は学費を上げても給付があるので出願者数が減らなくなり、学費を上げるインセンティブが生じてしまう」と懸念する。慶応大学の小西祥文教授(実証ミクロ経済学)も「高校授業料無償化は私立校・塾の授業料の高騰や受験競争のさらなる過熱化を招いてしまう危険性があり、支援額を引き上げた場合、その効果が増幅される可能性は否定できない」との見方を示した。

高校無償化の支援上限は引き上げるべきか(主な意見)

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実際に支援額を引き上げた大阪府では公立高校の定員割れが相次ぐ。早稲田大学の野口晴子教授(医療経済学)は無償化の拡大により「私立高への集中が起こり、ただでさえ疲弊している公立高の教育環境の悪化を招くのではないか」と述べた。一方、東京都立大学の阿部彩教授(貧困・格差論)は「私立校にもいろいろあり、通信や定時制など、貧困層や不登校の子どもを対象とした高校への支援を増やすべきだ」と支援拡大に理解を示した。

調査では就学支援に関わる所得制限をなくす是非についても尋ねた。現行制度は①公立・私立を問わず世帯年収910万円未満なら年11.88万円②私立の場合は590万円未満なら年39.6万円――を上限に支給している。自公両党と維新は2025年度から①の所得制限をなくし、26年度からは②の制限もなくした上で支援上限額を引き上げる方向で議論している。

Q.高校授業料に関わる家計への支援は所得制限をなくすのが望ましい。

経済学者の間で、所得制限をなくすことへの賛否は割れた。制限撤廃の反対派は、就学支援が高所得層にまで及ぶことで、教育格差が広がりかねないことを懸念する。東京大学の重岡仁教授(応用ミクロ経済学)は「所得制限を撤廃することにより、高所得層に対する不必要な支援が生じる懸念がある。限られた財源を低・中所得層への支援に重点的に配分する方が、教育格差の是正に資する可能性が高い」と述べた。

高校無償化の所得制限はなくすべきか(主な意見)

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一方、所得制限の撤廃を支持する意見には「正確な所得把握のしにくさ」や「教育機会の平等」を挙げるものが多かった。慶応大学の中室牧子教授(教育経済学)は「年収という単一の指標で人々の困難度を正確に把握することが難しい」などとして制限撤廃を支持した。慶大の坂井豊貴教授(メカニズムデザイン)は「納税による社会貢献の量が多いほど、税による社会サービスが受けられなくなるのは公正を欠く。所得制限を課すと、税が支え合いの仕組み(紐帯)ではなく、一方的に支える仕組み(分断の原因)になってしまう」と述べた。

Q.高校無償化の対象拡大は、教育向けの財政支出として優先順位が高い政策である。

与野党が協議している高校無償化の拡大には、数千億円の財源が必要になる。そもそも教育政策としての優先順位は高いのか。目立ったのは「教育の質向上」や「幼児教育の拡充」の方が優先順位が高いとの回答だ。

一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は質を高める政策として「教職員の処遇改善、教育のデジタル化などに予算を充てるのが優先」と述べた。ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン氏らの研究などにより、幼児教育の充実は子どもの将来所得を向上させる効果が大きいと知られている。一橋大学の森口千晶教授(比較経済史)は「教育格差をなくすためには早期の教育投資の方が効果が大きいため、幼児教育や義務教育に関する支援の方が優先度が高い」と語った。

高校無償化の優先順は高いか(主な回答)

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教育そのものを無償化していく重要性を指摘する意見もあった。仏エコール・ポリテクニークの郡山幸雄教授(ゲーム理論)は欧州などで教育無償化が進んでいる現状を踏まえ、「中等・高等教育無償化の面で日本の現行制度は遅れていると言わざるを得ない。財源確保の課題はあるとしても、機会均等、労働資本、社会資本への投資の意義は高く、教育支出の優先度は高い」との見方を示した。

個別政策を挙げる回答もあった。東京大学の松井彰彦教授(ゲーム理論)は「教育政策という観点から言えば、小学校低学年からの語学教育の充実は急務」と述べた。一橋大学の森田穂高教授(産業組織論)は「優先順位がより高いのは、大学教育および大学入試制度の抜本的な改革」との立場だった。

今回の「エコノミクスパネル」調査は13〜18日にオンラインで実施し、47人の経済学者から回答を得た。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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