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トランプ氏「ウクライナは感謝しろ」 でも米国によるウクライナ支援の7割が米国内か米軍に費やされている

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
「ウクライナは感謝しろ」とゼレンスキー大統領に声を荒らげたトランプ米大統領写真:ロイター/アフロ

2月28日に米ホワイトハウスで行われたトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談では、トランプ氏が「ウクライナは感謝しろ」などと声を荒らげる場面があった。同席したバンス米副大統領も、ゼレンスキー氏が会談中に一度でも「ありがとう」と言ったかどうかを問いただした。実のところは、ゼレンスキー氏は会談の冒頭、トランプ氏の招待に感謝し、戦争中の米国の支援に対しても感謝の意を表していた。

トランプ氏は居丈高で「この国はウクライナに多くの支援をしている」とゼレンスキー氏を強く批判したが、国際社会が忘れてはいけないことがある。米国によるウクライナ支援額の大半が米国内あるいは米軍に費やされていることだ。大部分の金は米国に落ちている。その上で、ウクライナの鉱物資源の権益を得ようとしている。

米保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所が2024年5月に発表した調査によると、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、米国がウクライナに提供した1750億ドル(約26兆3600億円)の援助のうち、実に約70%が米国内または米軍に費やされた。

例としては、大統領権限による米軍備蓄の放出分(Presidential Drawdown Authority:PDA)、対外軍事資金プログラム(Foreign Military Financing Program:FMF)、ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(Ukraine Security Assistant Initiative:USAI)などが含まれる。

PDAはウクライナに武器を供給し、その在庫を補充するために米国企業に資金を提供する。FMFは外国に米国企業から武器を購入するよう促すことで、米国企業に対する需要を高める。USAIは多くの場合、米国企業との契約を通じて、ウクライナに情報と兵站支援を提供する。追加の援助は、海外での米軍のプレゼンス強化に充てられる。

要はウクライナに対する米国の軍事援助のかなりの部分は、最終的には米国の防衛関連企業に渡っている形だ。米国はウクライナに対し、現金による援助という形でも軍事援助を行っており、これによりウクライナは他国からも武器を購入できるが、軍事援助の多くは米国製の装備品である。米国がウクライナに供与してきた、米国製の対戦車ミサイル「ジャベリン」や自爆型ドローン「スイッチブレード」などがそれに当たる。

米国はウクライナに軍事支援を続けてきたが、それは米軍と米国の軍需産業の「軍産複合体」の利益につながっているのだ。

●欧州のウクライナ支援額は米国の2倍以上

CNNの2月25日付の記事によると、トランプ大統領は24日のマクロン仏大統領との会談で、「米国は欧州諸国よりもはるかに多くの資金をウクライナ戦争に投じている」と主張したが、これは誤り。ドイツの経済シンクタンク、キール世界経済研究所によると、2024年12月までの欧州連合(EU)と欧州各国が戦時下のウクライナに提供した支援総額は約2580億ドルで、米国の約1240億ドルの2倍以上に達した。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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