AIが話し相手になってくれるから寂しくないね、と思ったら、そんなに単純なことではないみたい。
OpenAIとMITメディアラボが「AIチャットボットが孤独に与える影響」を共同で調べて、その成果を21日に発表したのですが、 AIチャットボットを使えば使うほど、もともと孤独だった人は余計に孤独が深まるんだそうな。人とつながるはずのSNSで余計に孤独が深まるのとまったく同じことが、AIの世界でも起こっていたんですね。
調査は、4,000件近くにおよぶChatGPTと人間の対話のデータをOpenAIがMITに提供するかたちで進めました。
第1の調査では「ChatGPT音声モードのヘビーユーザー約6,000人の利用状況」を3カ月に渡って調べ、うち4,076人に「チャットボットを使ってどんな気持ちになったか」をアンケート。
第2の調査では、被験者981人のChatGPTとの対話を28日間に渡って観測してみました。論文はどちらも複雑かつディープ。一読の価値ありです。
最大のポイントは、チャットボットを軽い気持ちで使ってあまり感情移入しない人は「孤独が深まった」とは感じないのに、もともと「孤独を感じる」と答えていた人は使用後「余計に孤独になった」と答えていること。論文にはこうあります。
総じて1日の使用が長ければ長いほど孤独、依存、悪影響は増し、人づきあいは悪くなる。
コミュニケーション手段によっても結果は異なり、 孤独な人は、音声型のチャットボットと対話するほうが文章で対話するより孤独の悪化が確認されました。
最初は音声のチャットボットのほうが孤独や依存症を癒す効果があるように思えるが、利用頻度が高まると、こうした当初のメリットは減退していく。特にこの傾向は無味乾燥な音声のチャットボットで顕著だった。
なんかわかる。機械的で、気持ちが入ってなく感じるんでしょうね。
ゲームやSNSと同じ
研究班はこれらの結果をSNS中毒やゲーム依存症の過去の調査と比べて、こう報告しています。
孤独とSNS利用は悪循環になることが多い。 孤独な人は、SNSのプラットフォーム滞留時間が増えるほど、自分と他人を比べて落ち込んで、置いてけぼりになる不安を感じ、孤独が深まって、ますます利用時間が増える悪循環になる。
言うなれば、孤独はネット依存症の原因であると同時に結果でもあるのだ。
ちなみに第1の調査は自己評価が頼みだし、季節的要因や気候の要素(感情を左右する2大要因)は考慮に入れていません。その点は注意が必要だと研究班は念押ししていますけどね。
チャットボットが人間の感情にどんな影響を与えるのか。この分野の研究はまだ始まったばかりです。本来であればAI開発企業側で調べて、孤独の悪化を軽減する対策をサービスに組み込むべきことだというのが研究班のスタンスです。AIシステムのしくみを理解する人が増えれば、依存症に陥るリスクは減る、とも論文では述べています。
AIリテラシーについては、もっと全体を見回したアプローチが必要。
今はまだAIリテラシーを高める努力といえばテクニカルな話に重点が置かれている状況だ。しかし、心理面のことも考慮に入れていかないといけない。
特に問題の核心を突いていると感じたのは、第1の調査報告の最終章「インパクト」に書かれている次の1文。
AIチャットボットの過度な利用は、技術の問題であるだけでなく社会の問題でもある。孤独を癒し、人と人の健全なつながりを促す努力は欠かせない。
現代人を襲う孤独の病は複雑かつリアルな問題です。孤独を感じる理由は人それぞれですし、昔なら人混みをプラプラすればある程度孤独は癒されていたかもしれないけど、今は商店街も寂れてしまってますからね(アメリカの場合、モールはみなゴーストタウン化していてデパートもドラッグストアもバーもカフェも潰れて荒れ放題。移動は車だし、人混み自体が消えてしまってる)。ネットにつながりを求めて群がる心理は必然でもあるわけで。
孤独の問題はAIが生まれる遥か前から叫ばれていた現象ではありますが、AIの力をもっても解決にはならず、むしろ悪化につながるというわけです。
自殺に追い込まれる例も
こういう研究にOpenAIが手を貸したのは一歩前進ではありますが、企業はとかく利益追求に走るあまり、リスクのことが後回しになりがちです。後回しにしている間にいろんな事件が起こってしまっている現実もあります。
2023年には30代のベルギー人男性が、AIに温暖化の懸念を打ち明けるうちに思い詰めるようになり自らの命を絶つ悲劇が起こっています(男性は鬱病歴のある人だった。妻はChai ResearchのチャットボットElizaと長い“恋愛関係”となり自殺に追い込まれたと主張)。
さらに昨年は米フロリダでも14歳男子がボットとチャットしながら自殺していたことがわかって、母親が開発元のCharacter.AIを訴えています(93ページにおよぶ訴状には、AIに心奪われていくプロセスが赤裸々に描かれていて、かなり恐ろしい)。
AIコンパニオンの需要はあります。孤独を癒す近道ではあるのですが、それで余計に孤独を感じることもあるってことで取り扱い要注意ですね。月額課金のサービスは金銭的利益も絡んでくるので、「所詮はユーザを虜にしてエンゲージメントを高めるためのマシン」とドライに捉えるのもアリかと。論文の結論は、人のつながりを促す社会体制が急務というものですが、使う側にも新たな意識が求められています。