賃貸物件の家賃値上げ 大学生から不安の声 高騰はなぜ?

物価高騰が続くなか、賃貸物件の家賃が上昇しています。都内の大学生からは家賃の値上げに不安の声が聞かれ、中には引っ越し事情に影響を及ぼすケースもあります。
どうして家賃が上がっているのか、都内の不動産事情を取材しました。

東京23区 平均家賃が過去最高値

東京23区では、マンションの平均家賃が過去最高値を更新しています。

全国の家賃などを調査するアットホームによりますと、
東京23区のことし2月のマンションの平均家賃は
▽30平方メートル以下のシングル向きが9万8346円
▽30~50平方メートルのカップル向きが16万1906円
▽50~70平方メートルのファミリー向きが23万8868円で
いずれも過去最高値となっています。

家賃 なぜ上がる?

なぜ、賃貸物件の家賃が上がっているのか。

アットホームラボの磐前淳子執行役員によりますと、理由は主に
賃貸物件の建築や維持管理にかかる諸費用が上昇していることや
コロナ禍に鈍っていた人の動きが回復して転勤や就職、進学による住み替えの活発化があるといいます。

また最近の分譲マンションや戸建ての価格高騰を受けて、ファミリー層が購入を見送り、賃貸物件にシフトしている影響もあるということです。

大学生「家賃高い状況続くと苦しい」

賃貸物件の家賃が値上がりしていることについて、都内の大学生からも困惑の声が聞かれました。

先月から1人暮らしを始めたという大学3年生
「大学に近い高田馬場周辺で探しましたが、求めていた条件の物件では家賃が高く、最終的に決めた物件は希望していた場所から少し離れた所になりました。家賃が高い状況が続くと学生としては苦しいです」

現在は実家で暮らすという大学4年生
「内定先が決まって、早めに物件を探そうと思い、家賃を調べた際、先輩から聞いていた家賃より上がっていて、認識のずれを感じました。これからもっと上がるのかなと思うとモヤモヤします」

家賃引き上げに困惑の声 SNSでも

SNS上でも家賃の引き上げに関する投稿が相次いでいます。

関西地方に住む大学生は「この春から家賃が値上がりする。親に連絡したら仕送りを増やしてくれて感謝」と投稿していました。この学生は家賃が5000円値上がりし、バイトなどでなんとかやりくりしているということです。

また、関西地方の別の大学生は大学の先輩の家賃が値上がりしたことに触れ、「次の契約更新の時に上がるかもしれず怖い」と今後の影響を懸念する内容の投稿をしていました。

さらに、来月から管理費を2000円引き上げるという通知を受けた都内の大学生は「食費や交際費を削らざるを得ない可能性が出てきました。学業との両立を考えるとバイトの時間を増やすのも限界がある」としたうえで家賃の値上げが続いた場合、家賃が比較的安いエリアへの引っ越しを検討せざるをえないとして不安を吐露していました。

東大生の引っ越しに“異変”

新年度がスタートするなか、賃貸物件の家賃の高騰は大学生の引っ越し事情に影響を及ぼしています。

東京・世田谷区の下北沢駅周辺には、東京大学の「駒場キャンパス」に通う学生に物件を紹介する不動産業者が多くありますが、例年にはない“異変”ともいえることが起きているといいます。

それは、文京区にある「本郷キャンパス」周辺への引っ越しを控える動きです。

東京大学の1、2年生の多くは駒場キャンパスで学んだあと、3年生からは本郷キャンパスに移るため、例年、新年度を前に引っ越しをする学生が多くみられます。

しかし、複数の不動産業者に取材したところ、ことしは引っ越しをせずに、更新をしてそのまま住み続けるケースが目立っているということです。

こうしたことなどから不動産業者のなかには東京大学の学生用の取り扱い物件が去年の半分になったところもありました。

家賃や引っ越し費用の高騰から学生側が大学までの移動時間や交通費を考慮しても、引っ越しをしないほうが負担が少ないと判断している可能性があるということです。

家賃引き上げ 大家側にも事情

1人暮らしの学生にも影響が出ている家賃の引き上げ。ただ、大家側としても切実な事情があります。

私たちの取材に応じた都内で複数の物件を所有している60代の男性は、家賃の引き上げをせざるをえない状況について「固定資産税も上がっているうえ、何か不具合が出た場合に修繕する費用や人件費も上がっている状態です」と話していました。

このほか、電気代などの値上げの影響で、マンションの共用部分の光熱費も上がっているということです。

男性は「それらの費用負担のたびに家賃に上乗せされると借りる側は納得しないと思いますが、貸主側としてもそれなりの費用がかかるのでしかたないというのが本音です」と話していました。

引き上げ額 不動産業者が仲介のケースも

東京大学の本郷キャンパスがある文京区を中心に展開する不動産業者によりますと、ことしは新規契約や更新などのタイミングにあわせて大家側から家賃の引き上げに関する相談が例年以上に多かったということです。

この会社ではおよそ7000の物件を仲介していますが、光熱費や地価などの維持管理のコストが上昇していることを理由に大家全体のおよそ6割が家賃の引き上げを求めたということです。

例えば、巣鴨駅近くの1LDKの賃貸マンションでは、これまでは賃料が15万4000円でしたが大家側の意向で今月以降、新たな契約からは5000円引き上げ、15万9000円になったといいます。

一方で、大家側が頭を悩ませているのが、特に学生が多く住むマンションです。学生は社会人と比べてお金に余裕がないため、家賃の引き上げで退去してしまう可能性があるからです。

このため、この会社では事前に大家が検討している引き上げ額を借主の学生に伝え、大家側と学生双方が折り合いをつける額を模索する場合があるといいます。

この春に仲介した物件では、大家側は当初、3000円の引き上げを提示しましたが、会社が学生から苦しい生活状況を聞きとり、大家側に事情を伝えたところ、最終的に1000円の引き上げに落ち着いたということです。

実用春日ホーム千石店 森下茂樹店長
「私たちとしても家賃がここまで上がり続ける状況は初めてで、困惑しているのが正直なところです。やむを得ないと感じますが、貸主と借主が双方が苦しい状況もよくわかるので、お互いが良好な関係を保てるように今後も丁寧に説明を続けていきたいです」

識者「家賃上昇は続くと予測」

アットホームラボの磐前淳子執行役員は引っ越しを控える動きは学生やエリアに限らず、増えていると指摘します。

アットホームラボ 磐前淳子執行役員
「家賃の高騰が続く中、引っ越し先のほうが高くなるうえ、初期費用や引っ越し代、手間をてんびんにかけると引っ越しを諦める人が多いと考える」

今後の見通しについて「家賃上昇の背景となっている諸費用の高騰や賃貸需要の上昇は続くと思われる。下がる理由は見つかりにくく、家賃の上昇傾向はしばらく続くと予測している」と分析したうえで「いま、『本当にここまでの広さが必要なのか』など、住まいに求める優先順位を見直す人が非常に多い。学生も優先順位の洗い出しを行い、もう一度見直してみるのもいいと思う」と話しています。