【コラム】日本市場巡る神話消えず、米国の不満は続く-リーディー
コラムニスト:リーディー・ガロウド
石破茂首相はトランプ米大統領と7日に行った電話会談を踏まえ、関税を巡り米政府との本格的な交渉に乗り出す方針だ。一方で、米国側をどう説得すればいいのか、石破氏が考えあぐねている様子もうかがえる。
その理由はトランプ氏らから出た最近の発言を聞けば容易に理解できる。同氏は先週、トヨタ自動車は「米国で100万台の外国製自動車を売っているが、ゼネラル・モーターズ(GM)は日本ではほとんど売れない」と関税政策に触れながら述べた。
「フォードはほとんど売れない。わが国の企業はどこも外国に進出できない」と付け加え、日本など各国が「非金銭的制限」を設けていると非難した。
トランプ氏のアドバイザー、スティーブン・ミラー氏によるXへの投稿はさらに強烈な不満を発している。
「なぜ米国の道路は欧州や日本の車であふれているのに、彼らの道路に米国車が1台も走っていないのか」と疑念を呈し、日本のような国は「自国市場をわれわれの車に閉ざす一方で、われわれの市場は彼らの車であふれている」とコメントした。
GMとフォードが日本でほとんど売れていないのは事実だ。GMの販売台数は前年度で約1000台、フォードは200台以下だった。しかし、不公正な貿易慣行が問題であるという考えは誤りであるだけでなく、いつまでも消えない神話の一つだ。
売れない理由
米国が日本に課している自動車輸入関税は2.5%だ。日本はトランプ政権以前からもっと低い関税率を米国車に適用していた。
実際には何パーセントか。答えはゼロだ。日本政府は1978年以降、自動車輸入関税を課していない。確かに過去に障壁があったが、それはもう何年も存在していない。他の障壁も取り払われている。
市場アクセスを巡る米国の不満について、日本の国会議員たちは何世代にもわたり頭を抱えてきた。米国車が売れない理由は実際にはもっと単純なことだ。つまり、米国車に魅力がないのだ。
米国の自動車メーカーが、単に日本人が好む車を造ることができなかっただけの話だ。日本のドライバーは安全性と信頼性に優れ、コストパフォーマンスの高い小型で燃費の良い車を求めている。
もちろん、こうした要望に応えるのは、米国勢のみならず多くの国内メーカーにとってさえ難しい。だからこそ、日本で売れる車の2台に1台はトヨタ製なのだ。
さらに、日本国内では販売台数の3分の1が軽自動車で占められている。米国のメーカーはこのカテゴリーの車は製造していない。
一方、米国で最も人気のある車は、日本の道路や駐車場には大き過ぎる。米国で長年トップセラーとなっているフォード「F-150」の一部モデルは、あまりにも大きく、日本の普通免許では運転することさえできない。
日本で外国車もよく見かけるが、それは国内メーカーが提供できない何かがあるからだ。それが、日本の高級車市場で外国ブランドが存在感を示している理由だ。
メルセデス・ベンツグループは昨年、5万台以上を日本で販売。BMWやフォルクスワーゲン(VW)も成功を収めている。欧州車が高級イメージをアピールできている一方で、米国車の評判は良くない。
米国勢が努力を惜しまなければ、その評価は変わるかもしれないが、そうする米メーカーはほとんどない。日本でも富裕層が住む地域で目にする機会が増えているテスラは、その例外の一つかもしれない。同社は日本の販売データを公表していない。
ミラー氏のような苦情から判断すると、多様性・公平性・包摂性(DEI)やその他の「目覚めた」とされるイニシアチブへの反対で知られるトランプ政権は、アクセスにおける平等を望んでいないように思えるのは何とも皮肉だ。
むしろ、平等な結果という形での公平性を求めているのがトランプ政権だ。
文化的基盤
日本市場へのアクセスが制限されているという主張が最も長く続いている例は自動車かもしれないが、対日批判はそれだけで終わらない。
トランプ氏はかつて日米安保条約を批判する発言の中で、日本の消費者は日本製のテレビを好むと考え、「もしわれわれが攻撃されたら、日本がわれわれを助ける必要は全くない。ソニーのテレビで見ていればいい」と2019年にやゆしていた。
しかし、こうした固定観念はもはや当てはまらない。現在、日本で販売されるテレビの半分以上は中国製だ。かつては低品質とされていた中国ブランドは、コストパフォーマンスの高さで国内の消費者を魅了し始めている。今やソニー製テレビの国内シェアは10%以下に落ち込み、海信家電集団(ハイセンス)やTCL科技集団にリードを許している。
携帯電話市場でも同じことが起きた。2000年代初頭に日本で短い間事業を展開していた英ボーダフォン・グループの経営陣は、他の国々では成功を収めていた戦略が日本で消費者に受け入れられなかったことに困惑。
当時よく指摘されていたのはボーダフォンが日本人の好みを理解していなかったことではなく、日本製端末に対する非論理的な愛国的な選好というものだった。
だがその論理は数年後、アップルがスマートフォン「iPhone」で日本のほぼ全ての端末サプライヤーを駆逐したことで破綻。日本市場投入から15年余りを経た今、iPhoneは円安で非常に高価になっているが、それでも依然として5割のシェアを占めている。
経営陣や政治家が「非関税障壁」や「非金銭的制限」と呼ぶものの表面を少しはがしてみると、その裏にあるのは単に、厳しい国内市場で消費者のより微妙な好みを理解しているライバル企業に対するフラストレーションだというのはよくあることだ。
顧客の要求は非常に厳しく、その選択はグローバルなトレンドとは異なることが多いが、これは、欧米とは全く異なる文化的基盤を持つ先進的な大規模経済圏では驚くことではない。
しかし、ウォルト・ディズニーやLVMH、マクドナルドから動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」に至るまで、日本の消費者は外国の製品やサービスを購入することに何の抵抗もない。
これらの企業が受け入れられているのは、何十年にもわたって、国内市場の好みに合うよう努力してきた結果だ。ただ、石破氏がトランプ氏にその点を理解してもらえるかどうか、あるいは論理的に議論して説得できるかどうかは全く別の問題だ。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The Japan Tariff Myth That Just Won’t Die: Gearoid Reidy (抜粋)
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