
(写真:稲垣純也)
怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、教授に褒められ、海外論文が認められ、ソフトウェアエンジニアとして就職できた――。
大学時代にChatGPTを使って毎日ゲームを作る「#100日チャレンジ」を成功させ、その経験を本にまとめた大塚あみさん。そこには大きな苦労があったといいます。継続するためのモチベーション維持の方法や、苦労した点、ハンガリーの学生に講演を行った体験など、赤裸々に語っていただきました。
100日チャレンジ、最大のハードルは「心理的な壁」
――100日チャレンジは大変な試みだったと思いますが、最も苦労した点は何でしたか?
一番は、チャレンジを始める前の心理的なハードルだったと思います。何か挑戦しようとすると、そんな挑戦をしても無駄だからやめろとか、やったとしても意味がないみたいなことを言われ...。100日チャレンジを成功させるという、前例のなかったことに取り組むハードルはとても高かったんです。
それに、最初の3、4日目ぐらいまでは目新しい挑戦だったので反応が貰えましたが、だんだん周囲の反応も薄れていって。実際、7日目から95日目ぐらいまでは基本的に誰にも反応されない状態が続きました。個人としての戦いになっていって、それを続けていくのは非常に大変でしたね。
――無反応はつらいですね...。それでも継続できたのは何故でしょう?
それは周りに言ってしまった以上やめられなかったからです(笑)。いくらでも逃げられたとは思いますが、100日チャレンジのことを知った先生は、それを前提としていろんな予定を組んでくれていたんです。学会や、国内外の招待講演など...。そんな魅力的な予定がすべて白紙になると思ったらやめられなかったですね。
何かを継続するためには、周りに言うことも重要ですし、挑戦する上で必ずどこかに報酬を置かないとやり遂げられないと思います。やめちゃ駄目だ、逃げ道を作るなと、よくペナルティの方が強調されると思うんですが、それは最悪なアドバイスだと思っています。逃げ道がなくなってやる気になるかというとそうではなく、ただメンタルがやられるだけです。
――大塚さんはどんなインセンティブを用意されていたんですか?
1日が終わったら、寝る前に友達とお酒を飲みながらゲームをすることをインセンティブとしていました。22時ぐらいに約束して、それまでに何とか終わらせられるように。
――楽しみのために頑張る方がずっと健全ですね。
AIは万能じゃなかった
――100日チャレンジでAIに親しんだことで、大塚さんご自身の技術的にはどんな変化がありましたか?
100日チャレンジを始めるまでは、AIを万能なものだと思っていたんです。宿題の半自動化に成功したりもしていたので、AIって何でもできるなと思っていたんですが、プログラミングをやってみるとそうでもなくて。
AIが作ってくるプログラムはめちゃくちゃだし、短いプログラムをいくつか作ってもらったとしても、組み合わせる時に専門知識が必要。そもそも何か小さいプログラムをいくつか作るとしても、どういうものを作ればいいのかもさっぱりわからなかったんです。最終的にはどう作るのかを全部理解した上で、設計を考えると割とうまくいきました。結局はしっかり自分で勉強しないといけなかったんですよね。
プログラムの組み立て方と、それをどのような手順で作っていくかという計画を立てるのが「ソフトウェア工学」という学問なんですが、このソフトウェア工学とちゃんと向き合えたのは大きかったと思っています。コーディングとソフトウェア工学、この2つを組み合わせて考えることができるようになりましたので。
サボる方法をハンガリーの学生に教えてみたら
――ハンガリーの大学で「怠惰な学生でも高品質な仕事をするために」というテーマで講演されたそうですね。どういう反応がありました?
とても好評でした。私が実際にやっていた宿題をサボる方法や論文を書くときに何をしたか、あとは100日チャレンジについて説明した感じですね。具体的なサボる方法を教えたのが面白かったんじゃないかなと思います。
講演の後にプログラミングの授業もして、学生にゲームを作ってもらったのもなかなか好評でした。私を呼んでくれた講師の方に、学生から「講演が面白かった」というメールがいくつか届いていたり、いつも居眠りしている学生もすごい一生懸命聞いていたそうです。サボると言いながらも、検出をどうやって回避するかという高度な問題なので結構難しい話だったんですけどね。
――それでも"サボる方法"と捉えることで、面白く感じるんでしょうね。
2000文字のレポートを書くときに、2時間で書ける人ってあんまりいないと思うんです。多分丸一日頑張って書くレベルだと思うんですよ。ただ、AIでサボる方法を使えば1日でできてしまうんです。
ただ、自分のアイディアをいくつか出して工程の部分をChatGPTにやってもらうのが重要なんですけど、ここでボトルネックになるのは最初のアイディアが欲しいってことなんですよね。
そうすると「毎日日記を書く」のがベストになるんですよ。一週間にひとつぐらい生まれる"面白い思い出"を記録しておいて、それをネタに文章を書くんです。机に座って何を書こうかと考えてる時間が一番無駄です。日記に思いついたことを適当に書いておけば、自然とネタはできると思います。
――日本の学生は、実はあまりAIを使っていないそうですが、海外の学生も同じ状況ですか?
いえ、彼らは結構使っていますよ。授業でも使ってますし、そもそも使ったことないという人はあまりいないです。
――その差って何で生まれてるんでしょう?
ある意味、日本人の方が真面目なんですよね。ChatGPTを使うのはやっぱりサボりで、不真面目なものと認識してしまうんじゃないでしょうか。
それに、海外の学生の方が「効率化するのは個人の自由じゃないか」という認識が強いんですよね。情報工学を専門に学ぶ大学生だからというのはあるかもしれないですけど、ただ、何か根本的に効率化に対する考え方が違うとは感じました。
ただし、使い方がうまいかどうかはまた別の話で。AIを使っている日本の学生と比較すると、もしかしたら日本の学生の方がうまいかなと思うことも多少ありますね。