小さなプラスチックビーズが「電気」を生む? 摩擦の力を利用する未来のエネルギー

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  • author Kenji P. Miyajima
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小さなプラスチックビーズが「電気」を生む? 摩擦の力を利用する未来のエネルギー
Image: Ignaas Jimidar

冬にネコの体をなでてからネコの耳を触るとバチってなるあれみたいな感じ?

自力で充電するガジェットや、着て動くだけで発電する服。そんな夢のような技術が現実味を帯びてきました。

国際研究チームが発表したのは、指先に乗るほどの小さなプラスチックビーズを使って発電する技術。そのエネルギー源は、驚くことに「摩擦」なんですって。

ビーズをこすり合わせるだけで発電

今回、学術誌Smallに掲載された研究を実施したブリュッセル自由大学を中心とするヨーロッパとオーストラリアのチームによると、小さなビーズをぎゅっと詰めた表面同士を摩擦させることで、想像以上に多くの電気が生まれるといいます。

その原理は、下敷きで髪の毛をこすって離していくと逆毛立つ仕組みと同じで、「摩擦帯電」と呼ばれています。

この仕組み応用した装置は「摩擦帯電型ナノ発電機(TENG)」と呼ばれ、一般的には異なる素材同士の摩擦によって電気を生み出すそうです。

ところが、今回の実験では、同じ種類のビーズを使ったにもかかわらず、摩擦させると一部は正に、もう一部は負に帯電することが確認されたそうです。電荷のやりとりが効率的であるほど、生成される電気も増えるといいます。

カギはビーズのサイズと素材

ビーズといっても、種類や大きさによって発電効率が大きく変わることもわかりました。研究チームによると、大きなビーズは負の電荷を帯びやすく小さなビーズは正の電荷を帯びやすい傾向があるといいます。

なかでも、メラミン・ホルムアルデヒド(MF)という合成樹脂で作られたビーズがもっとも優れた性能を示したそうです。一般的に、メラミンホルムアルデヒド樹脂は「メラミン樹脂」と呼ばれます。頑固な汚れをこすって落とすメラミンスポンジでおなじみですよね。

メラミン樹脂でできたビーズは弾力性が低く、あまり“しならない”といいます。この“しなりにくさ”が、逆に電荷をしっかりと保持して移動させるのに都合がよく、高い発電効率をもたらすとのこと。また、溶剤を用いない乾式製法でビーズを作るため、環境への負荷を抑えられるというメリットもあるそう。

動くだけで発電する衣服や自家発電デバイスも夢じゃない?

この技術を応用できれば、将来的には充電不要の小型デバイスや、動くだけで発電するハイテク衣服が実現するかもしれません。

研究者チームは、摩擦帯電技術を使うことで、バッテリーや外部電源に頼らなくてもエネルギーが回収できるようになるため、持続可能なエネルギーやウエアラブル技術に活路を見出せるとしています。

さらに、安価で構造も至ってシンプルなビーズを使って効率よくエネルギーを生成できるため、コスト面でも有望と考えられています。

実用化には課題も

ただし、実際の製品に応用するには、まだ課題も残っているようです。スケールアップするためには、さらなる効率の向上や信頼性の確保が求められるといい、ビーズの素材や構造を最適化するための研究も続けられているそうです。

本研究の主執筆者であるブリュッセル自由大学のIgnaas Jimidar氏は、こう述べています。

「素材の選び方を少し変えるだけで、エネルギーを生成する効率を大幅に改善できることが今回の研究で明らかになりました。これによって、従来のエネルギー源に依存しなくても、日常生活に取り入れやすい摩擦帯電型ナノ発電機の新たな可能性が広がります」

よりマシなものを選びながら向かう未来

もっとも、今回の主役であるメラミン樹脂のビーズも、実は石油や天然ガスなど化石燃料由来の合成樹脂なんですよね。普通に使っていればリスクがないとはいえ、有害物質のホルムアルデヒドが含まれているのも気になります。

化石燃料から作ったビーズで、化石燃料からの脱却を目指す。矛盾しているような、でも確かに前には進んでいるような、ちょっとモヤる話。でも、たとえ少しずつでも、より環境負荷が小さいものを選択していく。これが、私たちが直面するエネルギー問題のリアルなのかもしれませんね。

Source: Phys.org

Reference: Jimidar et al. 2025 / small, ウィキペディア