■米ミルウォーキーの裁判官が逮捕された件について

米FBIが裁判官を逮捕　裁判所構内での移民拘束を「妨害」した疑い

https://www.asahi.com/articles/AST4T6QJJT4TUHBI049M.html

この事件の経緯について調べてみたので、裁判官に対する告訴状をベースにしつつ主観多めで書いてみます。

もともと法律全般に詳しくない上、他国のさらには不法移民取締りという特殊な司法制度についての内容ですし、大半の文章をChatGPTの翻訳で読んだので間違いも多いと思います。気付いた点などございましたらご指摘いただけると幸いです。

参考にした記事や文書

• https://storage.courtlistener.com/recap/gov.uscourts.wied.111629/gov.uscourts.wied.111629.1.0.pdf

デュガン判事に対する告訴状

• https://x.com/AnnJacobsMKE/status/1915857745170796595

デュガン判事を擁護する弁護士による告訴状の解説スレッド

• https://www.jsonline.com/story/news/local/2025/04/23/what-is-the-difference-between-ice-administrative-judicial-warrants/83219950007/

司法令状 "judicial warrant" と行政令状 "administrative warrant" の違いについての地元紙の記事

• https://www.milwaukeeindependent.com/profiles/hannah-dugan-transformational-law/

地元紙による2016年のデュガン判事のインタビュー

• https://www.theguardian.com/us-news/2025/apr/25/judge-hannah-dugan-milwaukee-arrest

この事件についてのガーディアン紙の記事

経緯

• ミルウォーキーの移民・関税執行局（ICE）はメキシコからの不法移民フローレス＝ルイスを強制送還のため逮捕することを決定した。逮捕のためにICE、FBI、国境警備局（CBP）、麻薬取締局（DEA）の6名からなるチームが編成された。
  • （不法移民の強制送還、他国刑務所への追放を強烈に推進するトランプ政権は、ICEだけでなく他の組織からも人員を大量に動員しています。そのため、このような寄せ集め部隊になったと思われます）
• ルイスは家庭内暴力の件で起訴されており、デュガン判事による審問が予定されていた。逮捕チームはこのタイミングで裁判所内でルイスを逮捕することを計画した。

• 当日、裁判所に到着した逮捕チームはルイスが出廷する法廷の係官にその旨を連絡した。係官は逮捕チームに審問が終わるまで法廷の外の廊下で待機すること、終了後に逮捕することを要請した。逮捕チームはそれに同意した。
• ICEがいることを知ったデュガン判事は怒った様子だったとの証言がある。デュガン判事と隣の法廷の判事が廊下に出てきて逮捕チームに近づき彼らの目的について質問した。チームの担当者が逮捕のためだと答えたところデュガン判事は逮捕状はあるのかと尋ねた。担当者は裁判官が署名する司法令状（"judicial warrant"）はないが、ICEの担当者が発行できる行政令状（"administrative warrant"）があると回答した。デュガン判事は司法令状が必要だと主張したが、担当者は裁判所の廊下は「公共の場所」だと反論した。デュガン判事は首席判事と話をするようにと言って法廷に戻った。
  • （この辺の解説は詳しいかたに任せたいところですが。行政令状 "administrative warrant" はあくまで行政による命令で、いわゆる通常の逮捕状であり裁判官による署名が必要な司法令状 "judicial warrant" のように個人の住居に立ち入ることを可能にするなどの強い効力は持っていないようです。一方で、米国の過去の判例によると、裁判所の廊下は個人の住居とは異なり、路上などと同じ「公共の場所」という扱いになるようです）
  • （ここでの「怒った様子」は告訴状に書かれている内容です。判事が感情的だとする印象操作との批判のコメントが寄せられています）

• 逮捕チームは1人を除いて首席判事室に移動したが、首席判事が不在だったため、電話でのやりとりとなった。首席判事はICEの裁判所内での活動についての方針を作成中であり、法廷内などでの逮捕は望ましくないと主張した。逮捕チームの担当者が廊下での逮捕は可能かと尋ねたところ、首席判事は廊下は「公共の場所」だと回答した。首席判事が方針についてICEの幹部と協議したい旨を伝えたため、担当者はICE幹部の連絡先を伝えた。

• 逮捕チームが首席判事室に移動して議論していた頃、法廷ではルイスと弁護士が退出しようとしていた。一般用の（public）出口から退出しようとした2人をデュガン判事は立ち上がって呼び止め、法廷の後側にある陪審員用のドアから退出させた。陪審員用のドアは非公開で通常は陪審員・裁判所職員・拘束中の被告などが用いるものである。陪審員用のドアから退出するように命じるデュガン判事の口調は厳しい（"stern"）ものだったとの証言が告訴状には書かれている。その後、デュガン判事はその日に予定されていた他の裁判の審理を行った。

• ルイスと弁護士が法廷の外の廊下に出てきた際に、近くにいてそれを目撃した逮捕チームは麻薬取締局（DEA）に所属する2名のみだった。ルイスらがエレベーターホールに向かうのを見たDEA捜査官Aは後を追いつつチームの他のメンバーに連絡を取った。ルイスらが乗ったエレベーターにDEA捜査官Aも同乗して下の階に向かった。ルイスが建物の外に出たという連絡を受けた逮捕チームは彼を逮捕するために行動を開始した。
  • （告訴状には、捜査官の証言として「建物には複数のエレベーターがあるがルイスらは南側のエレベーターに向かった。意図的に法廷から近いエレベーターを避けたと考えられる」といった内容が書かれています。これについては「エレベーターはそれぞれ行き先が別である。大半の人々は駐車場を利用しているので近くのエレベーターに乗るが、そうでない場合は遠くの混んでないエレベーターに乗る」という批判のコメントが寄せられています）
• ルイスが裁判所正面の旗竿のところにいるとの連絡を受けた逮捕チームのメンバーは、彼に近づき身分を告げた。ルイスは走って逃げようとしたため、逮捕チームは彼を追跡して逮捕、手錠をかけた。ルイスらが法廷から出てきたところを確認されてから22分後のことであった。

• この1週間後、デュガン判事はルイスの逮捕を意図的に妨害し、陪審員用のドアから退出させることで逃亡の手助けをしたとして逮捕、告訴された。
• トランプが任命したFBI現長官カシュ・パテルは、手錠をかけられ車に連行されるデュガン判事の写真を貼って「いかなる者であれ法の上に立つことは出来ない」とツイートした。

https://x.com/FBIDirectorKash/status/1915920876215701639

• トランプが任命した司法長官パム・ボンディは、「いかなる者であれ、ましてや裁判官は、法執行活動を妨害してはならない」と声明の中で述べた。（4/27 18:30追記）

https://www.reuters.com/world/us/fbi-director-says-arrested-judge-obstructing-immigration-operation-2025-04-25/

感想

• ルイスは声をかけられるまで逃走を図っていたようには見えない。逮捕チームが寄せ集めで意思疎通が上手く行っていない、首席判事と方針を議論している間にタイミング悪くルイスが外に出てしまった、などによる失態の責任逃れをするためにデュガン判事を攻撃したようにも見える。
• デュガン判事が陪審員用のドアから退出させた理由は不明だが、他の市民も利用する目につく場所で逮捕されるのは避けたいという考えがあったのかもしれない。「拘束中の被告も陪審員用のドアを利用する」ことが関係してくる可能性もある。理由はいろいろあり得る。
• 法務省による一括採用で純粋培養される日本の裁判官とは異なり、アメリカの裁判官は連邦と州で違いがあるがベテランの弁護士などが任命されることが多いようだ。デュガン判事は任命前は低所得者向けに法律サポートを提供する非営利団体で働くなど、どちらかというと人権派の弁護士であり、この点も「『活動家』裁判官が国を破壊する！」と個々の裁判官や司法制度自体を攻撃するトランプ政権にとって格好のターゲットになってしまった可能性がある。

追記（4/27 18:00）

• 不法移民のフローレス＝ルイスの犯罪歴などは本筋とは関係ないと判断したため書かなかった。実際、この件でルイスを擁護する意見は探した範囲では見つけることが出来ていない。デュガン判事を擁護する意見としては、裁判所という場における裁判官の裁量権の尊重や、行政令状はあくまで行政側の文書であって司法側には尊重義務が無いこと、判事が意図的にルイスの逃亡を手助けしたという解釈には無理があること、などである。
• 審問のために呼び出した被告が裁判所内で行政側の判断のみで別件逮捕されるということについて、デュガン判事が裁判所の権威を損なうものであり、また、今後の他の裁判にも影響が出る可能性があるものだと考えたとしても不思議ではない。判事が裁判所内での行政逮捕に反対した理由として、ルイスに同情したかどうかと関係なくこのことは言える。

Permalink | 記事への反応(4) | 13:50

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