個食の時代といわれる現代日本。都市部ではひとり客に特化した飲食店や、食べきりサイズの惣菜は一大マーケットだ。ひとり飲み、ひとり焼肉、ひとり鍋……どれも今は珍しくない。

メインの客層はひとり暮らしの人や、家族がいてもそれぞれが多忙で生活リズムが合わない人など、活動的に働く世代だろう。流行りの「ひとり○○専門店」は三大都市圏に集中していると言ってもいい。

ところが秋田のローカルスーパーでは、都市部とはまったく違う理由で「おひとりさま惣菜」が大人気だという噂を聞いた。そのラインナップたるや、労働者の救世主であるコンビニを遥かにしのぐ充実ぶり。どういうことか現場を訪ねてみた。


・秋田のローカルスーパーのヒット商品

まずは1店目。秋田県内で15店舗を展開する「グランマート タカヤナギ」にやってきた。


パンコーナー、デリカコーナー、鮮魚コーナーなどが入口から順に並ぶのは普通のスーパーと同じなのだが、目についたのが「あんべぇいぃ」と書かれたコーナーだ。


たとえばカボチャの煮物なら、一般的な100gとか200gのパックに混じって、たった2個だけがパックになったものを売っている。


刺身なら3切れだけ、おひたしなら40gだけ、など本当にミニミニパック。価格帯は100円~200円で手を伸ばしやすい。コンビニの惣菜に慣れていると、思わず二度見してしまう価格だ。

デリカテッセンなどの量り売り惣菜はたいてい100gごとの価格だし、「じゃあ100g」と頼むとびっくりするくらい少量しか来ないから、店員さんの前ではちょっと恥ずかしい。けれどこの小分けパックなら、なんの気兼ねもいらない! 最初から100g足らずの少量だ。


秋田の方言で「塩梅(あんばい)がいい=ちょうどいい」ことを指す「あんべぇいぃ」。同店の惣菜部門で、これまでの「小サイズ」よりさらに小分けの「あんべぇいぃサイズ」を出したところ大きな話題になったという。

少子高齢化の進む秋田県で、家族が家を出たり配偶者が亡くなったりしてひとり暮らしになった人や、若いときほど量はいらない人など、シニア世代のニーズにぴったり合致。同店は秋田のおひとりさま惣菜ムーブメントの発信源とも言えるだろう。


購入者層を意識してか、にしんと菜の花の和え物、切り干し大根、なます、煮っころがしなど、メニューは渋め。「あんべぇいぃ」は惣菜コーナーに限らず店内に点在していたので、あちこち見て回るのがよさそう!


本当にミニパックだから、「量が欲しい」人には逆に高上がりになる可能性がある。ただ、筆者のような料理下手にとっては、自分では作れない田舎のお母さんの味や、さばき方がわからない魚介類をひとり分だけ買えるのはとてもいい!



・他店でも少量パックの惣菜が豊富

2店目、秋田・青森両県にスーパーを展開する「伊徳(いとく)」にも豊富なラインナップがあった。


刺身は3切れ入り、肉だんごは2個入り。従来のお惣菜パックよりもさらに一段階、二段階と少量パックになっている。


色鮮やかなだし巻き玉子は、手のひらサイズのトレーに2切れだけ。


かき揚げは缶バッジくらいのミニチュアサイズ。


うどん屋のドカンとしたかき揚げよりもずっと小さく、無理なく食べきれるボリュームだ。


3店目、秋田市生まれのスーパー「マルダイ」では、「あんべぇいぃ」のようなひとり用に特化した惣菜はなかったけれども、やはりパック分けの単位が小さめのように感じられる。


揚げ物などは50gくらいからパックになっていて、価格も100円台から買える。安い!

揚げ物って、ひとりでは量を食べられないのに、調理にかかる手間は同じという難物。コロッケやメンチの「1個売り」は従前からあったが、天ぷらもひとくち単位で買えると手軽!



・お誕生会ができる

ご飯さえ炊けば、あとは立派な晩ご飯だ。ちなみにこの日、3店で全13メニューを買って税込2030円だった。ひとりビュッフェだよ。


鮮魚コーナーからはマグロ、ブリ、タコサラダ。野菜としてはオクラのおひたし、菜の花の天ぷら、カボチャ煮。唐揚げ、肉だんご、チキンソテーなどはメインディッシュになるだろう。

筆者は車中泊の旅をよくするのだが、旅人の夕食にもおすすめ! 秋田に来たら、ぜひコンビニではなくローカルスーパーに行ってみて欲しい。いろいろ買ってホテルで広げるのも楽しそうだ。


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.