任天堂対パルワールド特許権侵害訴訟について最も詳しい報道をしているのは海外メディア

任天堂対パルワールドの特許権侵害訴訟が進行中です。これに関して、少し前ですが、パルワールド側が声明を発表していました(参照記事)。同社は「原告が主張するいずれの特許も侵害していないと確信し、継続的な対応を取っている。また、原告の特許はいずれも無効であるとの主張も行っている」とのことです(ちなみに「特許も侵害していない」は原文ママ 正しくは「特許権も侵害していない」です)。加えて、今後も同作の開発を継続するための予防として仕様変更を決めたとのことです。
これは、特許権侵害訴訟においては通常の動きです。すなわち、侵害の否認、特許無効の抗弁、そして、設計変更による侵害回避という3本立てです。「無効であると思っているなら仕様変更は不要では」というコメントを書いている人がいましたが、訴訟ですので主張できることは全部主張します。原告も「仕様変更したのは無効であると思っていないからじゃないの?」といった攻め方は普通はしません。
さて、具体的な裁判の動きですが、日本の裁判関連情報は、判決が出ると一部の判決文が裁判所のサイト、および、有償の判例データベースや判例集で公開されるものの、進行中の裁判に関する情報は裁判所まで出向いて閲覧しないとわかりません。また、利害関係者でないとコピーも(スマホ撮影も)できません。ということで当事者が発表しない限り詳細な情報は入手困難です。PACER(Public Access to Court Electronic Records)というシステムで原則的にすべての連邦裁判記録をウェブで(実費料金で)閲覧できる米国とは対照的です。
しかし、何と、games frayという海外メディアがこの裁判について詳細な記事を書いていました。日本の弁護士に依頼して情報を入手してもらったとのことです。この訴訟について詳細をフォローしたいのであれば現時点ではこのサイトが最適と思います。特に、クレームチャートが引用されているので(メモを取るのが大変だったのではないでしょうか)たいへん参考になります。クレームチャートとは被疑対象物件(このケースではパルワールド)が特許権を侵害するかを争う、いわゆる充足論において使用されるツールです。長くなりますので別記事で解説しようかと思います。
さて、同記事によると、上記の声明どおり、侵害の否定、および、既存のゲームを中心とした先行技術に基づく新規性・進歩性の否定による無効の主張がされています。任天堂対コロプラ訴訟の時は、任天堂の特許が強力(広範囲)過ぎてどうすんのこれという感じでしたが、今回はそれほど一方的ではなさそうで、典型的な特許権侵害訴訟のように、無効論と充足論の両方において丁々発止のせめぎ合いが続くように思えます。たとえば、games frayの別記事によればパルワールドは任天堂の特許の実質的出願日の 2021年12月22日より前にキャラクターがパルを抱えて滑空する動画を公開していることがわかっており、任天堂の特許の進歩性を否定する証拠として主張可能です(実際にパルワールドが訴訟で主張したかどうかは記事からは不明です、また、動画で挙動が公開されていたからと言って必ず新規性が否定されるとは限りません)。
ところで、この記事でわかりましたが、任天堂側はTMI、パルワールド側は西村あさひ等と大手法律事務所の弁護士を結構な人数使っています(追記:初稿では逆に誤記していました、どうもすみません)ので、この訴訟で求める損害賠償金額が1,000万円であることを考えると、任天堂側は仮に勝訴しても元が取れないのではないかと下世話なことを考えてしまいました(後で請求額を引き上げるのかもしれませんが)。
さて、このgames frayというメディアですが、フロリアン・ミューラー(Florian Muller)というドイツ(現在はおそらくモナコ在住)の知財コンサルタントが一人で運営しているものと思われます。ミューラー氏はかつてはFOSS Patents(FOSS=Free and Open-Source Software)というサイト(現在は更新停止)を運営していました。同氏は弁護士・弁理士資格は持っていないと思われますが、知財に大変詳しく、精力的な情報発信を行っており、私も、アップル対サムスンやグーグル対オラクルの訴訟についてはこのサイトで勉強させてもらっていました。